workshop10. ライティングを設計する(1

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1.
既に一般記事に書いたがライティングの基本はポートレイトだろうとブツ撮りだろうと「太陽はひとつ」が原則だ。
地球にとって光源は太陽であり、私たちは太陽が発した光を地上の物体が反射する様を見ている。仮に地球ではなく、他の惑星に光源となる恒星が二つあったとすると、私たちが見ている風景とはまるで別の様相だろう。そして知的生物が存在し、私たちが写真と呼んでいるものと同様の技術があればライティングの基本は「太陽はふたつ」になっているはずだ。

このように私たちは光源がひとつの環境で物体が光を反射したり影をつくったりする様子を「自然なもの」として感じる。またこれが日常であるため、「太陽はひとつ」の原則からはずれた光の環境では大きな違和感を覚える。
たとえ複数のストロボを使用する多灯ライティングでも、「太陽はひとつ」の原則のもとにそれぞれのストロボを配置し、光量を調節することになる。
つまり一灯ライティングが基本だ。
一灯だけでは物足りだろうか。
否だ。私たちは太陽がひとつきりの屋外での撮影で特段不都合を感じない。これは太陽が巨大で大光量をはるかかなたから放っているため面光源としても巨大、光の拡散度も高いためだが、ストロボも一灯を基本とし、光が回らなかったり光量が足りない等の事情がないかぎり多灯にする必要はないのだ。
そして広い空間での撮影を除き、光が回らないとしたらストロボ等の光源の設置にミスをおかしている可能性がある。

これもまた既に記事に書いたが、基本の一灯ライティングは順光の太陽を模倣するだけだ。被写体正面、上方に45°の位置からストロボを発光させる。もし被写体の上部と下部の照度差が大きい場合は、ストロボと被写体との距離、角度を見直し、被写体の手前が白い床でない場合は大きなカポック(レフ)を水平に置くか、ある程度の角度をもたせて置くのが基本だ。
人体くらいの高さで顔と足の照度差がつきすぎるとしたら、光源の設置にミスがないかチェックし、レフで対処すべきで、ここに下側からもう一灯加えると「ふたつの太陽」になりかねない。懐中電燈を顔の下から照らすと異様な表情に見えるが、これは地面から光を浴びる経験が人間にとって日常的でないから異様なのだ。
Light2
レフに関してはカメラ側からレンズの画角分だけ隙間を開けて、垂直に左右45°程度の壁を被写体に向け立ててもよいだろう。ただ、いずれの方法を採用するかで被写体の描写が変わる。どれでもよい訳ではないのだ。
レフもまたライティングの重要な要素で、添え物ではなく光源と一体のものとして考え設置する。

この上方45°にある光源は被写体を中心に左右に45°の角度与えることで、順光だが太陽に対し斜め向きになった状態をつくることができる。この場合も、外光撮影同様に影が濃すぎる部分があればレフで起こすのが基本だ。照度差をむやみに別の一灯で解消するのは禁じ手である。
あくまでも太陽光で撮影する状態の模倣が基本だ。もちろんライティングによるコントラストの演出など太陽光だけでは難しい表現もある。だが屋外で撮影したり、窓から入ってくる光で撮影するとき光はどのように作用しているか考えてもらいたい。
Light3
2.
太陽光線は季節、時刻、天候によって様相を変える。
太陽光線の様相とは、どのようなものによって左右されているか頭に入れておきたい。
夏の太陽は高度が高く、垂直に近い角度で光が降り注いでいる。
逆に冬は高度が低い。
時刻だけを考えると、地平線から昇り始めは水平に近い角度だが、正午に南中となりもっとも高度が高く、夕暮れは昇り始めと同様の角度からの光になる。
晴天の日と曇天の日を比較すると、曇天の日のほうが雲によって光が拡散され光が周った柔らかく影が薄い状態になる。晴天の日はコントラスト比が高いとも言える。
雲はトレペであり、ディフューザーであり、ときにレフの作用でも置き換えられる。

各自が実験、研究すべきところは、このような太陽の在り方を[1.]に書いた基本形からどのように再現するかだ。スチルの撮影の場合は、もっとも扱いやすく照度比のコントロールがしやすい[1.]だけでスタジオ撮影はほぼ事足りるが、ムービーの撮影では時刻、天候などをライティングだけで再現している。
ぜひ映画を見て、どのように光が設計されているか考えてみてもらいたい。

3.
ストロボは色温度が太陽光に近く、さらに比較的大きな光量で瞬間的に発光する点が便利だ。ただしフォーカルプレンシャッター機ではシャッター幕が全開のまま移動する限界値がシャッター速度の上限となるため、日中シンクロではレンズシャッターに対してデメリットがある。また瞬間的な閃光のためライティングを事前に目で確かめることが不可能と言われがちだが、慣れてしまえばモデリングランプで照らされている様子や、出力比の調節、被写体との距離関係などからだいたいの予測がつくようになる。

色温度は太陽光に近いストロボだが、あきらかに異なるのが光の性質、拡散度だ。
太陽と比較するのも馬鹿らしいほど、ストロボの発光部は小さい。さらに太陽と地球の距離に比べ、ストロボと被写体との距離はあまりにも近い。これらの差が光の拡散状態の違いとなって如実に現れる。
このためストロボを直射することはまずない。あるとすれば特殊な効果を狙ったときだけである。
ストロボ光を面的に大きな光源とし光を拡散する手段が下図だ。
lighting
もしスタジオではない屋内で撮影する場合は、屋内の自然な光の周り方を再現するため天井等へのバウンスが向いている。クリップオンストロボを使用し発光部を上に向けるのと同じである。

次にスタジオでの撮影では、トレペやディフューザーに向けて直射する方法がある。芯が強い光を得ることができるが、他の方法より大掛かりになりがちで、一旦セッティングすると微調整がたやすくできないのがデメリットだ。しかし、自分なりのデータがあるならさほど微調整が必要にならないだろうから一度は試してみてもよいだろう。

現在はソフトボックスが主流になったが、アンブレラが廃れた訳ではない。アンブレラとディフューザーが組み合わされた製品もあり、アンブレラ単体より光の拡散度の上でメリットがある。このような製品ができる前は、アンブレラにトレペを貼って使用していた。
ソフトボックスとアンブレラの違いはどこにあるかだが、ソフトボックスは製品ごとに性質も品質も違いが大きくアンブレラにディフューザーの組み合わせとたいして変わらないものもある。もっとも端的な違いは、アンブレラでは発光部が被写体に対して後ろ向きとなり、傘の内部で乱反射した光を用いるが、ソフトボックスの発光部は被写体側を向いていて内部の乱反射はあるものの主にディフューザーよって光が拡散されるところだ。

開口部の大きさが同一のアンブレラ+ディフューザーとソフトボックスが存在した場合、アンブレラは指向性が低い光線、ソフトボックスは比較的指向性がはっきりした光線になり、狙い通りの光を得たいのであるならソフトボックスに利点がある。またアンブレラにディフューザーを用いない場合は、あきらかにソフトボックスより硬い光になる。
だがアンブレラと開口面積が等しいソフトボックスは、ソフトボックスとしては比較的大型の部類になりスタジオなどに常備されレンタルされるものとしては普通かもしれないが、運搬したりロケ先に持ち込むには大きく感じられるだろう。
ただしディフューザーが二重になっている製品もあり、一概に開口部だけで面光源化、拡散光化の効率を語れない。指向性に関しては、ソフトボックスにさらに指向性を高めるパーツがあるなど何かと行き届いているのは事実だ。
価格的に安価なのはアンブレラまたはアンブレラ+ディフューザーの製品で、たためば傘同様に細身になるうえにセッティングに必要な時間はソフトボックスより圧倒的に短く済む。もしこれからストロボライティングをはじめようとする人がいるなら、アンブレラ+ディフューザーから入門するのが気軽であり、撮影結果の差が明確に出るほどではないのでよいのかもしれない。

なお、アンブレラ、ソフトボックスともにさらにトレペあるいはディフューザーを前面に位置させ、面光源化と拡散度を高めることができる。

最後にアンブレラを巨大化させたセッティングを紹介する。
白色の板=カポックを縦長方向に立てて組み合わせ、中に上下二つストロボの発光部を設置し、開口部にトレペを張る古典的な手法だ。これをキャスター付きの台の上に組めば移動が容易になる。カポックを3枚にし台形を形づくるとなお拡散度の高いものになる。
この構成でストロボの位置を開口部から離し、向きをトレペ側に反転するとソフトボックスを大型にしたものと同じ仕組みになる。ソフトボックスは、古くからスタジオで使用されてきたこのセッティングを商品化したものなのだ。
ソフトボックスが大型化したものなので応用範囲は広い。
しばしば使用されるのは、背景紙と被写体との距離が離れた場合、背景紙のみを一様な照度でライティングするケースだ。背景紙の左右に一台ずつ設置すれば、被写体と独立した任意の光量を与えられる。被写体と等しい照度にすると背景が無彩色であれ有彩色であれ明度の統一がはかられるだけでなく、背景紙の彩度(無彩色なら明度)通りに再現できる。

特殊な場合を除いて、被写体と背景はレンズの画角が許す限り離したいものだ。
最初に一灯ライティングが基本としたが、中途半端な距離に背景が位置していると被写体に対して望み通りの照度が与えられても背景が暗くなりがちで、では背景に別途ストロボ光を与えようとすると中途半端な距離が災いし被写体側に影響が出がちだ。それなら余裕を持って別の光源を入れられるくらいにし、紙からの反射も影響せず、紙の質感が完全に消えたボケの色として背景が処理されたほうが望ましい。

※ライティングについて一回で説明しきれるものでないため、第二回を掲載する予定だ。

 

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