現像・実際のトーンと知覚できるディティール

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前回、輝度0から255の値つまり輝度の最小から最大の値までの分布をヒストグラムで点検し、これを可変させる操作について書いた。今回は、値0から255までの輝度をトーンまたはディティールとして如何に知覚させる画像をつくるかについて述べる。

ディティールとは何か、だ。写真のディティールは明暗の差や色の差として描写される。異なる明るさ、異なる色が入り混じることで細部の状態が記録されるのである。

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一見して上のチャートはディティールと関係のないもののように感じられるかもしれない。だが、ここで頭を切り替えて写真の一部分を極端に拡大した画像(いわゆる「等倍」以上にした画像)として見てもらいたい。このような明るさの違いが、写真内のディティールを構成しているのだ。

ここに示した階調は5%ずつ濃度(輝度)が推移している。だが私たちの肉眼では、明部はともかく暗部の差がはっきりしない。これは写真の一部分を拡大したものの模式図であるから、写真の全体像を見る人からは暗部の情報はつぶれてディーティールとしては感じられないことになる。

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たとえば、このような具合だ。

ディティールが豊富あるいは細密なディティール描写さえあれば優れた写真か、となれば否だ。しかし高性能なレンズ、カメラを用いて撮影した情報のほとんどが、このように埋もれて知覚できないという事実は理解しておいたほうがよい。ゆえに、値0から255までの輝度をトーンまたはディティールとして如何に知覚させる画像をつくるかなのだ。

では、RAW現像での操作に話を進める。

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これは先の模式図をCapture Oneで展開した状態だ。当然のことながら、やはり暗部のディティールを感じ取りにくい。
規則ただしく階調が推移していても、この推移を肉眼で感じ取れないのは人間の脳内の画像処理の性格によるものだ。規則ただしく階調が推移する信号が神経によって伝達されても、異なる感度で応答していると言える。聴覚で喩えるなら、若者が感じ取れる高周波(モスキート音)を高齢者が感じれないことに似ている。であるとしたら、同じ音源を聴いても若者と高齢者ではことなる感度(応答性)で感じ取っていることになる。(聴覚と視覚は別物であるから、あくまでニュアンスとして理解してもらいたい)

人間の視覚は、暗さの中の階調の推移には鈍感で、ある程度の明るさ以降は敏感になる。このような応答性に即した画像データをつくるほうが、カメラが記録したままのデータからRAW現像するより見かけ上のディティールが豊富になる。あるいは、最終的に不要なディティールを捨てる場合であっても、現像時にディティールの取捨選択をしやすくなる。そこで、以下のようにガンマ値のカーブを操作した。

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ガンマ値とは「応答特性」の値である。人間の視覚は、暗さの中の階調の推移には鈍感で、ある程度の明るさ以降は敏感である。この特性に合わせて、応答特性を「暗部を持ち上げ」「明部はデータそのものになるべく即した」状態にしたのが上図での操作だ。また音に喩えるなら、聞き取りにくい音域のボリュームを上げ、他は元データそのものに即した音量にした状態に似ている。操作は、カーブと呼ばれる直線(デフォルトの応答性)の暗部側ポイントを持ち上げ、このままでは明部側も持ち上げられるためもう一点ポイントを決め下げている。こうして操作された階調の差は、縮小された上図では微々たる変化にしか見えないかもしれないが、実際にはかなり大きな違いとなって現れている。

では、逆に明部側の応答性を高めた場合はどうなるかだ。

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このように、人間にとって敏感な明部領域でさえ階調の差が縮まって輝度の違いを判別しにくくなり、暗部側がなるべく影響されないようにしているため元画像同様に暗さの中の差がはっきりしない。めりはりがついたとも言えるし、ピーキーな感じとも言える。目視できない階調=目視できないディティールの部分が増えた状態は、ほとんど判別できない領域の情報を捨てた状態だ。

ここで、メリハリとは何かを考える。

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一枚の紙に文字が黒一色で印字されているとする。コピーマシーンで複写すると、元の用紙のディティール(繊維感等)が省かれ文字だけが記録される。これはコピーマシーンの応答特性が、輝度0か輝度255かの二値だけという極端な状態だからだ。極端ではあるが、元の用紙のディティールまで情報としては必要ないのでこのような設定をされている。一方、写真で複写するなら元の用紙のディティールが残る。では、コピーマシーンか写真で複写するか共に選択肢があったとき、どちらを選択するだろうか。文字情報だけ必要なら、コピーマシーンだろう。書道や古文書などの場合、紙質まで記録する必要があるので写真で複写するだろう。メリハリとは、画像の状態でもあるが「意図」をも意味するものなのだ。「恣意的」なもの、と言い換えられもするだろう。

RAW現像での「メリハリ」は、写真として何を伝えたいかという恣意的な判断に立つものなのだ。これは、どこをどのように見てもらいたいかの判断である。全面のディティールを詳細に感じ取ってもらいたいのか、部分なのか、あるいはディティールより形態なのかだ。いずれの場合であっても、撮影時から思い切った判断がついていて、こうした撮影のノウハウが蓄積されアウトプットまで完全に想定できるているなら、前述した方向でガンマ値を操作する必要はない。だが、このようなケースは希れだろう。また、RAW現像で表現をつきつめる場合はやはり様々な調整作業の前に、扱いやすい画像に仕立てたい。

扱いやすい画像とは、ディティールが知覚しやすい状態のことである。

Capture Oneの美点のひとつとして、部分選択した箇所(マスクした箇所)のみに任意のガンマ値を任意のカーブで容易に設定できる機能が挙げられる。この機能は、恣意的なメリハリを写真に付与するものである。一般的にRAW現像ソフトでは、画像全体のガンマ値は調整できても選択した任意の部分でこれを変えることができない。この機能を前提にして、私は現像の出発点で暗部を上げ、明部はなるべく元画像同様になるカーブを描かせている。あくまで出発点であるから、恣意的なメリハリは反映されていないが、階調(ディティール)の全容が目視できるばかりでなく、後々の部分調整をフルに情報を持った状態から行うことが可能だ。

これは前回例示した、海景である。

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撮影時に、暗部から明部までの情報をできるだけ記録するよう露光量を決定しているが、曇天であるため明るさの情報が圧倒的に欠如している。

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もちろん先の状態のまま現像してもよいのだが、私は輝度0から255までに再サンプリング、再マッピングした。これらの詳細については、前回の項を読んでいただきたい。

再マッピングしたものは、やはり準備段階の「素材」にすぎない。後々、現像を進める中で捨てる輝度情報(ディティールの情報・階調)があるとしても、ディティールの全容を知覚しやすくし、フルに情報を持った状態を用意したのだ。

さらに、今回説明したガンマ値の調整を加える。

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ここでは、コントラスト項目も可変させている。コントラスト項目を高めたことで、最終画像のおおよそのトーン(調子)が定まった。コントラストを変えたことで、この段階では「素材」から「作品化」へ一歩踏み出している。恣意的なディティールの調整に踏み込んでいるとも言える。なお、ガンマ値のカーブを整え、コントラストを高めるところまで、私がもっている現像レシピのひとつのパターンである。あとはモノクロ化や部分調整に移行する。

Fumihiro Kato.  © 2016 –

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