現像・ヒストグラムから始める

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Workshop. RAW現像についての第一回はヒストグラムの検討と操作だ。この回は通常記事として公開しているが、情報を追補して充実をはかった。

ヒストグラムは分布を示すグラフである。たとえば、ある街の住人の年齢構成を「10歳未満の人が10人、10歳以上20歳未満の人が20人…」と整理すれば年代別人口の「分布」を示すことができる。RAW現像では、撮影されたデータのうち画面に表示されているものの輝度の分布が表示される。

histogram1

具体的には、このようなグラフとなっているはずだ。

デジタル写真では、撮影された情報が標本化のうえ量子化されている。輝度情報もとうぜんのこと標本化のうえ量子化されている。暗黒を意味する0から明るさの最大値255までを横軸として、縦軸に0から255の各値の量が表示され、全体で輝度の分布を示したものが画像処理ソフトに表示される「ヒストグラム」である。

*標本化のうえ量子化/標本化とは 量子化とは

histogram0

ヒストグラムは曲線で表示されるが、実際には上図のように標本化され量子化された輝度0から255までの各値が並んでいる。

ヒストグラムを見れば、画像の特性がだいたい把握される。暗さ、中間の明るさ、明るさがどのような比率で画像中に存在しているか理解できるのだ。

histogram2

ある画像が上図のような明るさ(と暗さ)の分布曲線を示したとする。ヒストグラムがこのような曲線を描くのは、曇天かつ被写体の反射率比が小さい場合などで、写真的には「ねむい調子」とされるケースだ。輝度が低い暗黒に近い領域と輝度が高く最大値に近い領域が欠落している。逆に、中間値の分布が極端に少なく、輝度の最小値と最大値ばかりの凹型のグラフを描いている場合は、コントラストの性質がピーキーで「かたい調子」とされる。ただし、例外がある。

明るさの分布特性から「ねむい調子」「かたい調子」といっただいたいの傾向はわかるが、これはあくまでも全体像にすぎない。白い余白を大きく主たる被写体を小さくとった構図では、明るい領域の分布が多く示される。このとき小さな主たる被写体に適切な明暗比が実現されているなら、「かたい調子」ではない。暗い背景を大きく取った場合の、暗い領域の分布が多く示されるケースも同様だ。したがってヒストグラムでは「露光量」が適切かどうか判断できないのである。

ヒストグラムから知ることができるのは、画像中に暗から明まで0から255の各値がどのように分布しているかだ。露光量が適切か否かの判断は、画像そのものを見なければならない。暗から明まで0から255の値の分布を理解した上で、画像そのものを見て露光量の判断ができたとき、目標とする画像に近づける上でなにをどのように調整すべきか判明する。あるいは、調整をしているとき目標から外れないようにヒストグラムの状態を活用できる。

これはを録音に例えてみる。録音物の低音と高音のバランスが不適切な場合や好みではないとき、任意の周波数を持ち上げたり落としたりして調整する。オーディオのグラフィックイコライザーの操作だ。グラフィックイコライザーでは音を周波数ごと区切り、画像処理では輝度を0から255の値で区切った値をヒストグラムで目視したり操作する。

equalizer

RAW現像においては、画像を開いたらまずヒストグラムを点検する。展開された画像とヒストグラムを見比べ、現像の方向性を決定する。画像だけを見て諸々の操作をしてもよいが、他の画像との一貫性を求めるにはヒストグラムの数値を頼りにしたほうがよいだろう。私は、人様から頼まれた写真だけでなく、作品として撮影している写真の現像でも調子の一貫性を保ち、目標とする画像に簡単に近づけるためヒストグラムを活用している。

次に、ヒストグラム上の操作について述べる。ソフトによりUIと機能が異なるため、場合によっては操作できないものもあるかもしれない。このため、私が常用しているCapture Oneをもとに、UIは模式化したものを作図し説明する。

histogram3

ヒストグラムを元に調整するインターフェイス上に、上図のような三角形のポインタが用意されているはずだ。ねむい調子の画像が図のような明暗分布であったとき、下辺のポインタを暗さの最大値と明るさの最大値まで移動させると、黄色で表示したようにヒストグラムが変化し同時に画像も変化する。この操作は、元画像の明暗分布を明るさ0と255の範囲にサンプリング(標本化)しなおして明暗を置き換えることを意味している。ここでは元画像の明るさの最大値が240(要するにグレー)であったとすると、この明るさの領域は操作によって255(ホワイト)になる。他の明るさの領域もまた、同様に置き換えられる。結果として、暗黒から明るさの最大値までが揃った画像になる。このとき、RAWデータに記録されつつも画像として表示されていないデータが呼び出されるたり、分布グラフの形状から類推され存在しない状態が補完されたりする。

中央の三角ポインタが示す値は階調の中間値である。この中間値を起点にして、暗い側、明るい側に分布が広げられたのだ。

では上辺の三角ポインタを操作するとどうなるかである。上辺の三角ポインタは、任意の明るさ(暗さ)を上限(下限)値に決めるためにある。元画像が明るさ240、暗さ10の範囲だけの階調であることを上図(黒いヒストグラム)は示しているが、画像は0から255までの明るさの階調があるものとした上で展開されている。これが目視できる、RAW現像ソフトに表示された画像の状態だ。これを、明るさの最大値は240、暗さは10までとするのが、この操作だ。結果として、明るさの分布は圧縮されて黄色で示したような分布状態に再標本化される。

histogram4

こちらは前者の操作ほど使用する機会はないと思われるが、生成する画像の暗から明への階調のダイナミックレンジの両端を最初に決めることができる。

histogram5

さて、中間値に位置する三角ポインタについて説明をしつつ、操作について触れなかったのはこのポインタは重要な意味を持つので別項にしたかったからだ。下辺にある中央の三角ポインタを移動させると、どの明るを中間値(中央の値)として再標本化するかが決まる。たとえば上図のように明るい側に中間値を移動させると、結果として移動させたポイントより暗い領域の分布が拡張され、明るい側の分布が圧縮される。逆に暗い側に移動させると、移動させたポイントより明るい領域の分布が拡張され、暗い側の分布が圧縮される。

この操作の意図は、画像の任意の明るさ、つまり階調上の任意のグレーを中心に画像生成せさることにある。明るい側に三角ポインタを移動させ中央の値が移動すると、暗い領域の分布が豊富になった。操作以前は中間的な明るさだった画像の部分は暗くなり、暗かった部分はより暗さが増す。逆の操作では、中間的な明るさだった画像の部分は明るくなり、明るかった部分はより明るさが増す。

ここでヒストグラムの検討と操作の実例を示す。

以下が、RAW現像ソフトで展開したばかりの状態だ。

hg1

ヒストグラムを見ると、暗部から中間調まで輝度の分布は十分だが、ハイライトに向けて圧倒的に輝度情報が足りないのがわかる。典型的な曇天時の画像だ。このままで良し、とする判断も成り立つ。しかし、暗部に対して明部が圧倒的に足りない故にメリハリがないと判断して、以下の操作を加えた。

hg2

ふたこぶラクダのシルエットのようだったヒストグラムの曲線が、明部側に伸びたのがわかるだろう。この状態から、輝度の中間値を明部側にシフトしてみる。

hg3

逆に、輝度の中間値を暗部側にシフトしてみる。

hg4

ヒストグラムに注目して操作することで、さらに様々な状態をかたちづくることが可能だ。何も操作しないものを含め、どれが正解、どれが不正解などといった一律的な答えは存在しない。最終形態である作品の「画像の調子」へ現像作業を進めるうえで、出発点にふさわしい状態をまずつくればよいのだ。出発点で適切な画像状態にしておかないと、そのあとの作業が複雑化する。

フィルムを撮影媒体にしていた時代は、撮影時に増減感現像を想定した露光量とケミカルな現像時の操作で理想の「調子」にネガを近づけていた。デジタル写真においては、フィルムの時代と比べようもなくRAW現像で調子が整えられるようになった。だから、まず「ヒストグラム」を検討し、ヒストグラムと画像と見比べながら、作品の核となる出発点をつくるべきなのだ。

以下に示すのは、さらに踏み込んだ操作をしている。私がもっている現像レシピのひとつである。なにを意図し、なにを操作しているかは敢えて説明しないのでUIの状態から読み取ってもらいたい。なおこのカットは採用しなかったが、同様の処理を出発点にして「海景」の近作を製作している。

hg5

 

まとめてみる。

ヒストグラムは、画像中の階調がどのような性質を帯びているか示している。明暗0から255の値の分布量によって、階調の性質を示している。故に、RAW現像を行う際は他に手をつける前にヒストグラムを点検する必要がある。また、撮影時に意図した階調性を記録できなかった場合や、物理的にそれが不可能で後処理で満足の行く性質にする前提だった場合、明るさの分布量をRAW現像時に操作する。この操作はヒストグラムを描くUIに機能が集約されているため、ヒストグラムそのものへの理解がなければ闇雲なものになる。

Fumihiro Kato.  © 2016 –

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