レンズの透過率と測光、露出値の決定

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レンズの明るさという言葉で表現されるものはひとつではない。

AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDとAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dについての話をしようと思っているのだけど、そのためにはレンズのF値とT値の説明が必要かもしれない。もし説明が不要なら前置きの部分を飛ばして読んでいただきたい。

F値とT値

ほとんどの人が特に意識することなく「レンズの明るさ」と言う場合、レンズの開放F値つまり口径比(焦点距離÷有効口径)の値が小さいか大きいかについて言い表している。F1.4とF2.8のレンズでは、F1.4のほうが明るいレンズなので絞り開放で撮影するなら2段速いシャッター速度が使える。

口径比=焦点距離÷有効口径とは、部屋の奥行きと窓の大きさの関係で説明される場合が多い。窓から10mの奥行きがある部屋があるとして、窓が大きければ大きいほど部屋の奥まで明るいし、部屋の奥10mの位置から窓へ近づくほど明るい。焦点距離が同じなら、有効口径が大きいほど口径比、絞り開放のF値は小さく明るい。レンズの有効口径が同じなら、焦点距離が短いほど口径比、絞り開放のF値は小さく明るい。

ただ、これは理論上の値であって実際にレンズを透過する光の量の多寡とは関係ない。

撮影用レンズは普通複数のレンズで構成されている。ガラスの質、レンズの枚数、空気面の数によって光が透過できる量が変わる。光が反射したり減衰するためだ。透過性のよいガラスを使い、構成枚数が少なく空気面も少なければ光の透過量は増える。コーティングによっても透過量は変わる。

このため同じ口径比のレンズであっても、構成やガラス、コーティングが違えばレンズの明るさが変わる。これを部屋の奥行きと窓の大きさの話で例えるなら、同じ大きさの窓であっても透過性がよいガラスなのか濁りがあるかによって部屋の明るさが違うだろうということになる。レンズに使用されている高級な光学レンズは濁ってはいないが、微妙な透過率の違いや構成枚数でだいぶ明るさが変わる。

こうした実際の透過率はT値で表される。センサーに実際に届く光の明るさはT値であらわされる。

F値とT値では、透過率100%で仮定したF値より実際の透過率を反映したT値のほうが大きくなる。しかも同じ口径比(開放F値)であっても、レンズの設計が変わればT値はかなり大きく違う。2絞り分くらい違うのも珍しくない。

ということで、AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDとAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dについて[レンズの明るさ]を考えていく。

このFマウント現行品のマクロと、先代で1993年発売のAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dでは同じ口径比でもT値がかなり違う。現行Gタイプはインナーフォーカス、先代Dタイプは全段繰り出し。レンズの構成は以下のようになっている。参考までにAF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G EDの構成図も掲載する。

105mm比較 参考60mm

新旧であり、なにかと技術革新があった現行GタイプのほうがT値が明るくて当然のような気がするが、これは気のせいで先代DタイプのほうがT値が小さい=光の透過量が多い。

それぞれのレンズを取っ替え引っ替えしないかぎり(人によっては)気になることはないかもしれない。あるいはぼんやり気づきながらも、とりたてて原因を考えずレンズの味(個性)と位置付けておしまいになるかもしれない。ところが、単体露出系で露光値を割り出して(たとえばF8、1/250秒などと)設定したうえで同条件をGタイプとDタイプで撮影すると撮影結果の画像の明るさにかなりの差が生じて誰もが気になるはずだ。

それぞれのレンズで、同じF値、同じシャッター速度で撮影したとき、あきらかにDタイプのほうが明るくGタイプはアンダーになる。

こういう例は珍しくないので、単体露出系の出目そのままに撮影してよいわけでない。RAW現像では露光量のズレを吸収できる幅が広いとはいえ、あまり大きなズレは避けたいし、それでもよいというならそもそも露光値・露光量なんてどうでもよいということになる。

以下に、ストロボを使用し単体露出計で測光した値で撮影した画像で比較する。

まずAF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED。露出計の出目、F11をそのまま適用して撮影。

105G F11

AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8D。F11

105D F11

明らかにDタイプで露光オーバーになっている。Gタイプの露光が適正かどうかとなると微妙に暗いと私は判断していて、このため同レンズを使用する際はほんの少し明るく撮影したものを中央値と意識し意図に応じて調整している。なお今回の実験では105mm Gタイプレンズをもとに色温度、色かぶりの値を決め、他のレンズにも適用している。

またGタイプとDタイプでは画角がかなり違う。Gタイプがインナーフォーカスを採用しているため近接撮影時に画角が広くなるのを嫌い、無限遠時の画角そのものをかなり狭くしている可能性を感じつつ、近接撮影時でもDタイプより狭いので真相はわからない。

ではDタイプはGタイプよりどれくらい明るい(透過率が高い)のか。AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8DでF18

105D F18

色温度の関係もありGタイプのF11より背景が暗く感じられるかもしれないが、データ上ではほぼ同じだ。1+1/3絞り明るいことになる。

梅雨空でむしろ明るさが安定している空模様を撮影した。スポットメーターで送電鉄塔のすぐ右上あたりを測光して出目で撮影している。

AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED。F11 1/320

105G F11 1/320

AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8D。F11 1/320

105D F11 1/320

画角が異なるのは近接撮影時と同じ。そしてあきらかにDタイプのほうが明るいのも同じ。

ではAF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDは透過率が低く抜けが悪いレンズなのか、というとそんなことはない。

以上の結果から「あたりまえだろ」と言う人もいるだろうし「思ったより差が大きい」と感じた人もいるだろう。ちなみに105mm Gと比較して、標準マクロのAF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G EDは2/3絞り程度明るいので、これを考慮して私は露光値を調整している。あたりまえだろ、と言う人はきっと私がそうしているように露光量を調整しているはずだ。もし思ったより差が大きいと気づいた人は、手持ちのレンズが実際にどの程度の明るさなのか調べてみることをお勧めする。

そのうえで気をつけたいのは、周辺減光の影響が大きいレンズだ。私の手持ちレンズのうちMilvus 15mm F2.8は超広角のため周辺減光が強い。このようなレンズでは絞り開放付近と十分に絞ったときでは、画面の明るさが驚くほど異なる。これは中央部から周辺まで幅広く減光しているためで、周辺減光というより全面減光している様相だからだ。

周辺減光

こうしたレンズでは、常用絞り値と開放でどれくらい差があるか検討すべきだ。

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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