超広角ズームは便利なのかどうか

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この記事は実用記事ですが読み物よりの内容です。超広角ズームの本質と、選択のポイントなどを説明しています。超広角というとレンズ屋さんのカタログ写真では、アングルが急激でパースの誇張が極端でダイナミックに見えるものを繰り出してくるけれど騙されてはダメですよという話にもつながります。そして超広角ズームは基本的には不動産屋さん用、建築写真用がベースになっているのではないか……なのです。


写真の仕上がりを発想するとき、私はまずパース(遠近感)描写から思い描いて、その後にさまざまな様相を組み立てて行く。こればかりは性格なので他の人に強制しようとは思わないし、やめろと言われても変えようがない。

まっさらの空間が想定されて「こういう奥行き(または厚さ)と広がりがあって、周囲が遠ざかる(あるいは張り付いてくる)ものの見え方だよなあ」となり、それはXX判では焦点距離何mmという決め方だ。

ゆえにと言ってよいかわからないが超広角が大好きで、かといって歪みは嫌いなので魚眼レンズには食指が動かないのだった。10代の頃にかなり古いおんぼろ中古の135mmを買った次は、がんばって新品の28mmを手に入れた。その後、20mmを買った。というくらい広角、超広角を使い続けてきたし経験からパースについていろいろ学んだつもりだ。

だから最近も、超広角ズームの使い所について(いつもどおり理屈っぽい)記事に書いたりしているが、このときも「超広角ズームは便利なのかどうか」という問いが脳裏をよぎった。

24-70mmとか24-105mmのようなズームレンズは、超広角の手前の広角、広角、準広角から標準、中望遠と複数の焦点距離カテゴリーが内包されている。すべて使う訳ではないが、これらのうち2つ、3つを使い分けて1回の撮影に使用するのは珍しくない。

ところが超広角ズームにはこういった多様性はない。

さまざまなズーム比、広角端と望遠端の超広角ズームがある。いずれにしても広角端と望遠端の間の24mmに境界線を引いて、その位置で広角ズームと超広角ズームが切り替わると考えてもらいたい。

というのも、日常的な広さ・遠近感の感覚の延長線で対処できる広角と、あきらかに非日常的な広さと遠近感があり数mm変化するだけで特性がころころ変わる超広角では、被写体・ワーキングディスタンス・アングル等々から撮影者の意図までまったく別物になると言ってよい。

たとえば「35mmと24mmを1回の撮影で使い分けるのはあり得るけど、15mmと18mmとか15mmと20mmを取っ替え引っ替えする撮影なんてない」と言えば理解してもらえるだろうか。

だから超広角ズームの使い所は、広角ズーム領域と超広角ズーム領域の二本立てになる。

16-35mmあたりを気にしている人が多いだろうから例にして説明しよう。16-35mmズームの広角ズーム領域は24-35mm、超広角ズーム領域は16-24mmになる。

24-35mm領域:
かつて24-35mmズームというものがあったことでもわかるように、24mm・28mm・35mmは(超広角から超望遠までの)全焦点距離中でも珍しい隣り合った焦点距離のレンズそれぞれに使い分けポイントがある焦点域だ。ルポルタージュ的な撮影では、これと望遠系があれば完璧と言える。

16-24mm領域:
残りの16-24mm域は、16mm、18mm、20-24mmの3段階に使い所が分かれる。20-24mmと幅を持たせたのは境界線の領域にあって、20mmと24mmは連続性があるというか似ているところがあるからだ。これは理屈ではなく使用実感と結果から導いた結論だ。

何度でも書くけれど、「35mmと24mmを1回の撮影で使い分けるのはあり得るけど、15mmと18mmとか15mmと20mmを取っ替え引っ替えする撮影なんてない」のだ。

こうなると超広角ズームは、超広角域1本、広角域適宜数本分のレンズということになる。ひとつにまとめられるメリットは大いにあるが、もし広角域が必要ないなら超広角単焦点1本でもよい。

不動産屋さんが売家や賃貸の室内を紹介しようとして、どうしても超広角一本では自由度が低いからズーム化するというのはよくわかるけれどね。

さて超広角単焦点はズームより歪曲・解像・周辺減光など優秀とは言っても選択肢が少なく、超広角ズームのほうが安価またはお買い得だったりする。そしてメーカーは「超広角といっても何mmがいいかわからないでしょ?」とズームレンズを繰り出してくるのだった。

超望遠ズームは「運動会を撮影したい」「サーファーを撮影したい」など目的がはっきりしていて、その焦点距離がないと被写体を引き寄せられないのがはっきりしている。いっぽう超広角は新たな表現欲求や未知の視覚への好奇心が購入動機になって、その焦点距離がないと撮影できないとする目標が曖昧だったりする。

こうなると超広角には興味津々だけど、どのくらいの焦点距離=画角がよいかわからない人はアンパイであるズームしか目に入らない。そしてズームの端と端の間をいたずらに移動して、超広角域のめまぐるしい変化に翻弄される撮影に陥りやすい。

さて16-35mmズーム的なズーム域のほか、18-35mmや11-24mmなどなど超広角ズームはとても多彩だ。なぜ多彩になるかというと、ユーザーの使い所をひとつにまとめきれないためで、なんでもアリにするか試してみたい人用にするか超広角域専門に特化するかいろいろ製品を出すほかないのだろう。

16-35mmで説明したことをまとめると以下のようになる。まずズーム比と焦点距離ごとの特性比較。

次にこれらの使い所。

前回の記事で紹介したのが以下の説明。16-35mmの説明を理解して、これを他のズームに適用しながら読んでもらいたい。

16-35mm/24mmより焦点距離が長い[日常の感覚と親和性がある焦点距離]の1本目のズームは、30mmあたりに画角変化の中間焦点距離があり、24mm、30(28)mm、35mmとしてStandard line up的解釈ができる。よく似た焦点距離に思われるかもしれないが、それぞれ特徴がある使い分け可能な画角だ。

[非日常の感覚の焦点距離]の16-24mm側は、16mm、18mm、20mmから24mmに分けられる。20mmから24mmと幅を持たせた理由は、20mmと24mmどちらかを選択するというより特徴や使い勝手に共通項があって一体の領域に感じられるからだ。似ている、連なっているという感じだ。

16mm、18mm、20mmから24mmのうちもっとも使い出がある焦点距離を撮影者が選択して意識する。なぜなら、画角が変わるごと性格が激変する超広角域では望遠ズームのように寄り引きのためズームしていては構図だけでなく撮影意図さえ不明確になるからだ。そもそも単焦点の超広角を数種類使い分けている人はいないに違いない。

仮に16mmを意識して使う焦点距離にしたとすると、16-35mmズームは16mm、24mm、30mm、35mmが画角変化の使い所となるズームレンズと解釈できる。超広角側に焦点距離がひとつおまけについたズームレンズだ。

16-28mm/16-24mm側の扱いは同じでも、24-28mm側はほぼ28mmのみ想定して使用することになるだろう。超広角域は16mm、18mm、20-24mmのうちもっとも使い出がある焦点距離をメインに据えるだろうから、使う焦点距離は超広角と28mmに二極化しやすい。

18-35mm/超広角域の変化幅が狭い超広角ズームは、実は24-35mm側がメインで、18-24mm側は超広角側に焦点距離がひとつおまけについた状態と考えるべきだ。そうだとしても、前述の16-35mmなども超広角側のすべての焦点領域を満遍なく使える訳ではないので16mmや15mmが必要ないなら18-35mmと条件は変わらない。むしろ、24-35mm側をメインにする割り切りもできて使い勝手がよいかもしれないくらいだ。

14-24mm/これまでに説明してきた超広角ズームとだいぶ事情が変わる。超広角域のうち特定の焦点距離をそれぞれ使い分ける使用法になる。11-24mmならなおさら。

「35mmと24mmを1回の撮影で使い分けるのはあり得るけど、15mmと18mmとか15mmと20mmを取っ替え引っ替えする撮影なんてない」のに、ズームだとできてしまう。

「できてしまう」というより、ズームレンズの機能によって撮影者が踊らされてしまう。

初心者が、やたらズームリングを回して不用意な撮影をして使えないカットを量産するのと同じ現象が、初心者の時代をとうの昔に終えたはずの人でさえ超広角に不慣れなだけで再現してしまう。

超広角はわずかな焦点距離と画角の変化で特性がころころ変わるので、こんな撮影をしてもカットごと意味があり気な気がしてくるし、これを見た人は強烈なパース感に圧倒されて「いいね」ボタンを押してくれるかもしれないが、まあ1年後くらいに見直すと顔が真っ赤になったりする。

はじめてズームレンズを使った人のお散歩写真とやってることが変わらないからだ。あとは他人があまり使っていない珍しいレンズで撮影しているだけ。魚眼レンズを振り回して、鼻が大きく描写された人物像を面白がっているレベル。

辛辣で嫌味ったらしい表現をしたけれど、誰もが一度は通過する難所だろう。

16-35mmあたりのレンジがいまどきは注目されているけれど、解放F値が変動するとしても「18-35mmあたりがなかなか秀逸ですよ」と私が言い続けているのには理由がある。

両者ともに、24-35mmの領域が確保されている。ここは24mm、28mm、35mmと実に使い所がある領域だ。

18-35mmの場合、超広角域は20-24mmと18mmだけ。16-35mmなら16mm、18mm、20mmから24mmと広角端の16mmで余裕が確保されている。だから多くの人が(超広角を扱い尽くしてもいないのに)18-35mmは初心者用とか安物と言う。大間違いだ。

「超広角がわかっていないのに、16mmのほうが18mmより凄そうだくらいの妄想で広角端の余裕を評価していないか」という話になる。

超広角レンズはやたら焦点距離を持ち替えて撮影するようなものではない。特定の画角とパース感を脳裏に描いて、撮影計画を立てたり被写体やアングルを探すものだ。そうでもしなかったら、画角の変化で特性がころころかわるのだから扱いきれたものではない。

24mm、28mm、35mmの便利ズーム域に、20-24mmか18mmの選択肢がついてくる18-35mmのほうが割り切りがよく、小型、安価、ねじ込みフードも装着できる。もし超広角の世界に更に踏み込む欲が生じたら、そのときはツァイスの15mmでも買えばよいし、こうなるとそもそも超広角ズームの出番はかなり減るだろう。

解放F値が暗くてマニュアルフォーカスに不便があり、F値変動であったりする点が許せるなら18-35mmあたりのズームは有力な選択肢になる。

(なお不動産屋さんが室内写真を撮るような分野でもなければ、超広角レンズは室内ではそうそう使わないレンズになる。しかも出目金レンズが多いし、そうでなくても口径が大きめだったり短いフードのキワまでレンズがきていたりする。保護フィルター嫌いの人でも、前玉のフッ素系コートだけでは信じらないと心配になるだろうし、落下や転倒や木の枝などがぶつかることまであり得るのでねじ込みフードが使いたくなる。レンズを傷つけて余計な出費はしたくないし、その時点で撮影が中止になるのだってつらすぎる。他のねじ込みフードを使いたい人もいることだろう。私はMilvus 15mmを砂丘や岩礁に持ち出すので保護フィルターを使って売り物の写真を撮影している)

最後に「超広角というとレンズ屋さんのカタログ写真では、アングルが急激でパースの誇張が極端でダイナミックに見えるものを繰り出してくるけれど騙されてはダメですよという話」をする。

最初はダイナミックなパースの誇張に酔っていても、そんなものはすぐ飽きる。超広角を使ううえで肝心なのは、いかに強烈なパース感をてなづけるかだ。たとえば水平・垂直だけでなく、画角内を横切ったり縦方向に伸びている(往々にして基準の水平・垂直と異なる角度の)目立つライン相互の関係をどうするかを問われる。

超望遠で、垂直に立ち上がって見える坂道ばかり撮っていたらバカでしょという話と同じだ。

これは、超広角は画角=広さとパースの誇張感を想定して撮影計画を練ったり被写体と構図を決めるセオリーにも関係している。また、こうして想定するのだから1mm、2mmの焦点距離で特性がころころ変わる超広角は焦点距離を取っ替え引っ替えして撮影するものではない。

メーカーもわかっている訳で、単焦点とズーム問わずいかにもなアングルが急激でパースの誇張が極端な作例をカタログに使っているのは、好奇心だけは旺盛で超広角が理解できていない人に向けた商売をしていると思ったほうがよい。パースの誇張をコントロールして見せている写真が多用されているならわかっている人向けの訴求だ。

で、「超広角ズームは便利なのかどうか」という問いに立ち返る。荷物をひとつにまとめられる便利さはあるが、世の中で想像されているほどの便利さではない。わかったうえで買い、わかったうえで使い所を見つけないとならない焦点距離だ。

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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