写真言語、写真の語彙、エモい!とか言うアレ

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自分の言葉で話しなさい、説明しなさい、と言う人がいる。自分の口から出る言葉なら、どうやっても自分の言葉だろうと反論する人もいる。「自分の言葉」とは、自分が感じた次第、考えた次第を語彙を選んで紡いだ言葉という意味であって、敢えて「自分の言葉」と言われるほど人はどこかにあった言葉を反射的に声にして会話していたりする。

こんにちは、ようこそ、最近どう? なんてものは反射的に口をついて出るのが普通だけど、ここから先の会話部分もほとんど「ありものの言葉」や「流行り言葉」だけで喋り続ける人がいる。ひどい例では、報道メディアがこの様子で何かを伝えたり論じたりしている場合もある。

信じられないかもしれないけれど、「自分の言葉で会話する」つまり「自分で思考」出来ない人がけっこう多いのだ。それでも社会生活が営めるのは、「ありものの言葉」や「流行り言葉」のおかげだ。

写真も同様で、自分が感じた次第、考えた次第を写真的語彙を選んで紡いだ写真と、「ありものの表現」や「流行りの方法論」を繰り出してよしとする人がいる。

また悲しい事実だけど、「ありものの表現」や「流行りの方法論」をそのまま使うほかない人がいる。

もう一度、会話について振り返ってみる。

自分の言葉で話をすると「言いたいことを言えずに終わる」かもしれないし、相手から批判されたとき大きく傷つくだろう。いっぽう過去に誰かが上手いことを言った残滓である定型句を次々繰り出していればとうぜん「上手いことを言っているように」聞こえるし、自分自身から出た言葉ではないから批判されても大した痛手は負わない。

自分の思考、自分の言葉でないにも関わらず自分のものと思い込んでいる人は、批判されて痛手を負うかもしれない。もっともやっかいなタイプだ。

自分が感じた次第、考えた次第を写真的語彙を選んで紡いだ写真を撮ろうとすると、表現したいことをできないまま終わるかもしれないし、批判されたときとてもつらくなる。こうした難しさ以前に、誰かが成功した方法をうまく真似るのが写真撮影であると信じて疑わない人がいて、「ありものの表現」や「流行りの方法論」で上手いことをやっているように見せかけている。

これもまた「ありものの表現」や「流行りの方法論」を自分のものと思い込んでいる人がいてやっかいである。

言語には人類が言葉を獲得して以来の遠大な歴史があるし、写真誕生から200年近い時間が経過しているので、どちらにも慣用句/慣用表現、元ネタといったものがあり、これらをどれだけ身につけているかが教養の高さというものだ。過去の人たちの営みがわかれば、現代を生きている自分が何をすべきか方向が絞れるし、過去の資産を新たな創作に生かすこともできる。

自分の写真的語彙にまで消化して自分が感じた次第、考えた次第の写真にするのだから、過去の資産を利用しても焼き直しや再生産ではないのでパクりとは違う。「ありものの表現」をそのまま使う訳ではない。

まあ何をどのように撮影して、撮影したものをどのようにしようと勝手なのだが、「ありものの表現」や「流行りの方法論」で上手いことをやっている写真は「カワイイ!」「エモい!」その他のリアクションにすぎないものでやりとりされる会話と何ら変わらない。このように考えると、いろいろ思うところが人それぞれあるはずだ。

「エモい!」等々ありものの表現で会話を切り返すのはわざとやってることですよとか、誰かが既にやってる写真表現そのまんまなのもウケるからですよとか、そういうこと言ってると本当にバカになっちゃうよ。

人には出来ることと、どうがんばっても出来ないことがある。出来るか出来ないかわからないままというのもどうかと思うし、出来るのにつまらない場所に留まるのはもったいない。もっともダメなのは、出来ない人が大きな顔をしている場合。

写真はすぐ「感性」で撮れとか正反対に技術論ばかりになって、写真史や写真言語、写真の語彙、思考法、思考を表現に落とす方法についておろそかにしすぎるよね。

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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