広角〜超広角・自在に使うためのポイント

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広角レンズで撮影された写真は、パースペクティブの誇張によって近くのものはより大きく遠くのものはより小さく描写され、どのようにしても肉眼で見たままの状態と異なる様子になる。これが広角・超広角の特徴であってメリットにもデメリットにも通じる。

写真には様々な目的があり物体の形状を正確に表現しなければならないジャンルがあるいっぽうで、形状の誇張や歪みはどうでもよい場合だってある。だから「必ずこうしなさい」と言えるものではないが、広角・超広角の違和感がデメリットになりがちなシーンについて言及しつつ、焦点距離の選択やアングルについて説明したいと思う。

・どこが悪いのかわからないが納得いかない描写

広角レンズで撮影すると「どこが悪いのかわからないが納得いかない描写」になってしまい常に上手く撮影できないと嘆く人がいる。

往々にして「アングル」を適切化できないまま撮影した結果、「どこが悪いのかわからないが納得いかない描写」になりがちである。

広角とくに超広角はパースペクディブの誇張が激しく、わずかなアングルの差で平行関係が大いに狂う。これは水平・垂直いずれの方向の平行についても気になり、「どこが悪いのかわからないが納得いかない」=平行の狂いである場合が多い。

以下の2カット(ライカ判フルフレーム/15mmで撮影)を見てもらいたい。

A

B

主観は人それぞれなので、どちらに対しても何も感じない人がいるかもしれない。だが私はAに落ち着きのなさを感じ、Bで解消されているように感じる。

なぜこのような感覚が生じるのか。写真に補助線を入れると理由がはっきりする。

構図はまったく同じではないが、たったこれだけの平行の崩れが写真の印象を大きく変えているのだ。

浜の終端と水平線の平行が崩れているか、かなり平行に近いかの違いによって写真の見た目の落ち着きに差が現れている。AをBへ適切化するため砂利道の方向が変わっている。画像内の電柱の位置と砂利道の方向をなるべく違えないよう試行錯誤するのも可能だったかもしれないが、道の向きを犠牲にして他を大きく変えない場合はこのくらい移動しなければならなかった。

上記の概略を模式図で示す。

Bのアングル

Aのアングルや逆方向に回転しても同様

ただし実際の地形は以下のようになっている。

画像右端で砂浜が隆起している。このため海への視界をわずかに遮り、水平線に至る距離(幅)が短く(狭く)見えるのだ。このような場合、浜の終端と水平線の平行関係が保たれていても見かけ上は平行が狂って見えがちである。

世界は直線と平行ばかりで構成されていないので、こうした条件ではファインダー(あるいは背面液晶)で構図を取るとき錯覚が生じて水平や平行関係を崩してしまうことがある。また気づいたなら、あえて平行を崩すことで違和感を減らす手立てを打たなければならない。

見た目に合わせるのだ。

デジタルカメラには電子水準器が搭載されていてファインダー内や背面液晶にガイドを表示できる。電子水準器はとても便利な機能だが、
1. 超広角で問題になカメラの水平・垂直の微妙なズレまでは正確に表示されない。電子水準器が水平・垂直が取れていると表示していても、わずかにズレている。
2. 前述の通り地形や被写体の歪みに対して水準器では対処できない。

・しっくりこない焦点距離と思い込みの画角

(ライカ判フルフレーム)35mmは準広角、広角と言えば24mm、超広角はよくわからないから超広角ズームなら間違いないと言う人がいる。こうした「何mmは何用」「何mmをみんなが使っている」という知識は、レンズメーカーがそう言っているのか、機材評論家が主張しているのか知らないけれど、あくまでも他人の感覚でしかない。

広角レンズは望遠レンズ以上に、効果に対する個人の感覚に差があり他人の感覚はほとんどあてにならない。

また焦点距離1mmの違いで生じる画角の違いとパースペクティブ描写の違いは、標準から望遠までのレンズと比べ物にならないほど差が大きい。

では何を頼りに未知の焦点距離を捉えたらよいのか。

(次の図はクリック・タップで拡大できる)

超広角18mmは水平画角90°で日常の視覚から逸脱した範囲まで撮影できる。20mmの画角は人間が意識の中に思い描ける記憶をつなぎ合わせた範囲が撮影でき、これは案外違和感が少ないことと状況を説明するのに都合がよいのを意味している。

35mm、28mmは特に何かを見るでもなく漠然とした視界に相当するが、上掲の図の2枚目[画角の相関関係]を見るとかなり違いがあるのがわかるだろう。人それぞれ感覚の違いはあるが、35mm、28mmは画角そのものより、画角の違いによって生じるパースペクティブ描写の違いのほうが大きく感じられるかもしれない。

[画角の相関関係]の図にあるように、広角レンズの一般的な焦点距離の並びは焦点距離が一段階短くなると対角画角が水平画角に相当するレンズになると憶えておけばよいだろう。

ほとんどの人が標準ズームを所有しているだろうから、意識的に(ライカ判フルフレーム準拠)35mm、28mm、24mmを使い分け、足を使ってワーキングディスタンスで写せる範囲を変えながら撮影すると真に使いやすい焦点距離がわかるだろう。

ちなみに何かの効果が大きいから使いやすい焦点距離なのではなく、異なる条件で均質な表現が可能かつ自由度が高いと感じられるのが真に使いやすい焦点距離だ。

あとは[画角の相関関係]図から各焦点距離との関係がわかるだろうし、二段階離れた焦点距離なら変化がはっきりわかり、しかも扱いに戸惑う割合が少ないように思う。

私は広角ならどのような焦点距離も大好物だが、おとなしい28mmからはじまり20mm、15mmの並びが自然体で扱えるラインナップだ。変化がはっきりわかり、しかも扱いに戸惑う割合が少ない二段階の差とはこのような並びを意味する。

ただし話は戻るが、焦点距離が短くなり画角が広くなるほどに「平行関係」の狂いが見た目上大きくなり、平行をどう扱うか問われるシーンが増えるのは忘れずに。

・隙間を恐れず空間の広さを写す

広角とくに超広角レンズを使ううえでのセオリーとして、「被写体にぐっと寄って画面いっぱいに写し止める」という使い古されたボロ雑巾のようなことを言う人がいる。

だったら長めのレンズで被写体を画角いっぱいに入れたり、説明要素として背景が写るくらいの引きで撮影すればよいのであって広角や超広角レンズで撮影する必要性はあまりないのである。

広角や超広角で寄った結果、対象にパースペクティブの誇張が現れ、これを迫力と感じるならそれでもよいが下品な歪みと紙一重である。

なぜ広角や超広角を使うのかと言えば、引きを大きくとらなくても広い範囲が撮影できるからだ。広さを表現するのだから、構図の隙間や空きを恐れてはならない。空間の広さを意味とした写真を撮るのである。

主たる被写体に寄るなら、背景の広さが描写できないなら広い画角を使う意味はない。

とはいえ、垂直方向な広さがある縦位置構図は建築物を画角に収めるようなケース以外では垂直の広さが大きな違和感になり、これもまた「納得いかない」描写になりがちである。

私たち人間が視野に収められる垂直方向の広さは(ライカ判フルフレーム)35mmの垂直画角程度がせいぜいだ。上掲の[画角の相関関係]をもう一度見てもらいたいのだが、28mmの対角画角が水平画角になる24mm、24mmの対角画角が水平画角になる20mmなのだから、縦構図にした場合の垂直方向がずば抜けて異様な広さになるか理解できるはずだ。

人間は首を振ったり、体の向きを変えることで水平方向が広がる(いわゆるパノラマ的な)視界は生来自然なものだ。しかし上を仰ぎ見る視界は非日常的であり特殊な経験なので広角レンズの縦構図が難しいのだ。

特に大きなインパクトを与える目的がないなら、ひとまず横構図で構図をまとめることと、広さを広さとして表現する構図を貫徹したほうがよい。これらが自在になったら好きなようにすればよいである。

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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