オリンパスE-510を持ち出した話

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フィルムからデジタルへの私的移行期に私はオリンパスの4/3システムを使っていた。まあ言いたいことは色々あるのだが、デジタル写真の特性を良くも悪くも勉強するにはとてもよい経験だったと思う。この時期に「さらに気楽に使おう」と買い足したのがE-510だった。

E-510は2007年発売の4/3システムのカメラで、とうぜんマイクロ4/3ではない。つまりミラーレスではない一眼レフ(視野率約95%・倍率0.92倍)で、ペンタプリズムではなくペンタミラー式だ。1000万画素、測距点3点という現代では考えられないスペックである。

視野率約95%・倍率0.92倍はライカ判ならともかく、4/3型センサーに対して95%・0.92倍なのでファインダーは鍵穴から向こう側を覗く感じというか、キレが悪いペンタミラーと相まってマニュアルフォーカスなんて無理である。でも目的が「さらに気楽に使おう」だったから、カメラ任せにせざるを得ないコンパクト機より一眼レフの作法で操作できるE-510はむしろ使い勝手がよかった。

でもまあ紆余曲折あってデジタルのライカ判はニコンへ移行したことで4/3はお払い箱になるのだが、売ったところでお金にならないE-510とキットレンズ14-42mmズームがなんとなく手元に残った。あと50mmマクロもある。これらは10年くらい死蔵されていた。

昨今はスマフォのカメラが優秀になって、Adobe LightroomをインストールしてLRからカメラを操作するとRAWデータが取れたりする。JPEG撮って出しでは使い勝手と魅力が半減以下だがRAWデータが保存できるなら下手なコンパクトカメラより使い手があるのだった。そういう目的でバシャバシャ写真を撮影していたのだけど、もやもやした気持ちがどんどん大きくなっていった。

Adobe Lightroomを起動する前にスマフォのロックを解除しなければならない。液晶がファインダーなのもよいし、ボリュームコントロールのスイッチをシャッターとして使うのもよいのだが、こうしたインターフェイスの位置とか連携とかがカメラ的ではないので使いにくい。スマフォカメラしか使わない人には「年寄りが変なこと言ってる」と言われそうだが、大昔の大きくて無骨なカメラでも操作系の配置と連携は撮影動作にかなっているとつくづく思うのだ。

これは撮影のリズムとか手ぶれとかに影響するし、液晶の像を見やすいように腕を伸ばし加減にして被写体を見るのは構図の水平垂直平行を取るのに向いていない。なーんか集中力が散漫になるし、明るい場所では像が見えているようではっきり見えていないし。

というもやもやが大きくなったので、死蔵されていたE-510を取り出して撮影してみたら「コレだよコレ」的な感覚が蘇ったのだった。E-510のファインダーはおせじにもよいとは言えないし、前述のように性能も時代遅れすぎるけれど、像を見てシャッターを押すとカシャッと小気味よい機械音がして撮影が終わる一連の感じがよい。

そしてちょっと驚いたのは、昨今のRAW現像ソフトにもE-510のORF形式のRAWを現像するプロファイルが含まれていて、DxO PLには各種レンズのプロファイルまであるのだった。驚きは現像結果にもあり、かつてオリンパスの純正ソフトやAdobe Lightroomで現像していたときと明らかに生成される像が違うのだった。

いまどきのマイクロ4/3に使用されているセンサーや撮像回路がどんなものか知らないけれど、4/3規格では最後まで白とびはするし解像や階調が大雑把(解像しない階調が出ないというのとは若干ニュアンスが違う)で御し難いものだった。これらが最新のRAW現像ソフトでは改善されているのだ。現像用のエンジンが10年で大幅に進化したのだからあたりまえであって、これがあるからRAWデータはきちんと保管し続けなければならないのだが、ここまで結果が明らかだと驚くほかない。

一例を示そう。写真的には意味がない作例にすぎないけれど、Capture OneとDxO PLでそれぞれデフォルトのまま出力した画像の比較だ。(曇天の正午過ぎに某田園地帯を散策中に撮影)

まずCapture One。

次にDxO PL。

色調の違いや明暗の違いはそれぞれのソフト次第であるし、横位置広角側のカットではDxO PLの歪曲補正がかなり強くかかっている。いずれにしても過去の現像ソフトではここまでディティールと色が出なかったし、空のハイライトは真っ白に飛んでいただろう。

1000万画素の限界は超えられないけれど、目的を限定するならまったく使えないほどではない。

写真がデジタル化され、カメラの性能が飛躍的によくなる過程とともに歩んでいる現代の撮影者は、とっくの昔に型落ちしたカメラを使い途のないジャンクくらいにしか考えていないはずだ。

なかには型落ちしたばかりの機種でさえ、ジャンク扱いする人だっている。たしかに性能は日進月歩で、値段がつくうちに売却して新しいカメラに買い換えるのが賢いのかもしれないが、場合によっては旧機種が生き延びる術があるのかもしれない。

現在に至ってのE-510への評価は人それぞれだろう。使えないよこんな変なカメラというのも一理ある。私はフィルムのライカ判にカラーネガまたはポジを装填して撮影した場合と同レベルもしくは超えているところがあると感じる。いまどきのデジタルカメラは、フィルムの中判や大判を超えた性能を実現しているのだ。

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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