コシナ・ツァイスとは?そしてどう付き合うか

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現在ツァイスブランドを掲げたレンズがいくつかある。ソニー用の純正レンズもそうだし、Otus、Milvusがそうだ。これらのうちコシナが製造していることが公言されコシナが販売しているものがコシナ・ツァイスだ。ソニー用のうち一部はタムロン製であるらしが、すべてなのか他はどこが製造しているかは明らかにされていない。

コシナとツァイスの関係はクラカメブーム終焉期もしくは完全に終わった様子だった時期に、フォクトレンダーのブランド使用権を手に入れたのと同じようにはじまった。このとき距離形式コンタックスを模したカメラが発売され、現在に続く同カメラ向けのレンズも発売した。一眼レフ用の製品としては現在Classicとカテゴライズされているプラナー50mmと85mmからラインナップされ、中望遠135mmから超広角15mmまでの錚々たる陣容になった。

Classicカテゴリーと呼ばれる前、単にツァイスとされていたので仮に無印と呼ぶなら、無印ツァイスは思いのほか廃番、新作の出入りがあった。多種多様なレンズが揃えられて、しかも製品の新陳代謝があったのは写真家や写真愛好家に支持され売れていたと言えるだろう。ただし私の個人的感想としては、無印ツァイスは統一感に欠けるものだった。

最初にラインナップされた50mmと85mmは、ヤシカ・京セラコンタックスのツァイスレンズを彷彿とさせるものだ。無印はレンズの外観からしてオールドレンズと言うほどではないが過去のレンズ特有の雰囲気に満ちている。これはフォクトレンダーブランドで距離形式カメラを発売したり、トプコンの標準レンズを模したレンズを発売したコシナのクラシック路線とほぼ同じコンセプトに沿ったものだ。

コシナ製品と言ってもさまざまなので一概に言えないとしても、フォクトレンダーブランドで成功して以来、オールドっぽい機種、外観、特性の製品が企画の根幹にある。そしてコシナ・ツァイス無印のフード取り付けバヨネットが金属光沢そのままのシルバーだった点を、私はどうしても受け入れることができなかった。なおヤシカ・京セラ用のツァイスはこのデザインではない。

ところが無印ツァイスは変貌した。懐かし路線から、現時点でも通用するトップバッター級のレンズを発売しはじめたのだ。マクロしかり超広角しかりだ。

路線変更がコシナ主導なのかツァイスの意向なのかはわからない。OtusとMilvusが新設されたことを考えると、ある時期からツァイスの意向が強くなったのではないかと想像されるだけだ。明らかに懐かし路線を捨てる意志が感じられるし、コシナお得意の商法と正反対を向いているのでツァイスがやる気を出してきたのだろうと想像している。

無印ツァイスは統一感が欠けるとしたのは、この部分についてだ。現在Classicカテゴリーに残されたのが50mmと85mmで、説明してきた通り懐かし路線のレンズであることが象徴的だし、名称からして「クラシック」だ。

Milvus側から見てみると、無印だったレンズの基本設計を変えないまま微調整したものが多いなか50mmと85mmは新設計だ。Milvusはデジタル高画素化に本格的に対応する現代のレンズと位置付けられている。となったとき、50mmと85mmは対称構造のプラナーでは収差補正が苦しくなり凹レンズからはじまるレトロフォーカスタイプに変えるほかなくなった。レトロフォーカスタイプはフランジバックが長い一眼レフ用の広角レンズで花開いた形式だが、現代では光を少しずつゆっくり曲げられる特性を生かし標準から中望遠で採用される例が増えた。

Milvusも旧無印から移行したレンズが多いことからわかるように、こちらもやや統一感のない部分がある。カメラメーカーの純正レンズでも完全に統一されていないのだから、これくらいはあたりまえなのかもしれない。

前述のようにレトロフォーカスタイプになった50mmと85mmは、上位カテゴリーOtusをツァイス的な普及価格にしたレンズとみてよい。ここまで完成度が高いと上位も普及価格帯もあったものではないが、リトルOtusと呼べそうな性格をしている。

こうしたリトルOtus的なレンズは、旧無印時代の末期に登場したものに傾向が感じられ私が好きで好きでたまらない135mmもそうだ(未だOtusに135mmはないが)。画角の隅々まで写りが均一で大口径なのに絞り開放から焦点が合っている部分はキレキレだ。これら美点は最短撮影距離から無限遠まで共通し、ボケのはじまりがスムースでボケそのものも癖がない。

末期以前のレンズもツァイス基準で現代に通用するとされたものがMilvusに移行したので、高いお金を払ったのにツァイスでコレなのかと落胆することはないだろう。好意的に言えばそれぞれの個性を感じるのだが、否定的に言えば個々の性格を知ったうえで選択したくなる。

再び個人的な好みの話になるが、私にとって無印15mmは他では代わりが効かないレンズで、買い替えたMilvus15mmも手放せないレンズだ。無印15mmと基本設計が変わらないMilvus15mmに買い替えたことでいかに偏愛しているかわかるだろう。しかし同じ超広角でも18mmは好みの写りではないので将来的にも買うことはないだろう。悪いレンズか良いレンズかではなく、好みの問題として選択肢ではないのだ。

こうした特性の違いはあっても、旧無印、Classic、Milvus、Otusの演色性は恐ろしいまでに揃えられている。いわゆる暖色系で下品にならないこってりした色乗りだ。光線状況や気候が変わっても演色性が裏切られることがない。ニコンのデジタルカメラはオレンジ系の発色に演色性がやや傾けられているので相乗効果によって相性がよいように感じる。

では買い方などの話をしよう。

コシナ・ツァイスの出荷は月2回に限られ、大量販店が確実に売れるのを見込んで在庫している以外は買う側からしたら受注生産的な納期の買い物になる。量販店でもタイミングが悪ければ次の出荷まで品切れになる。

マイナーな焦点距離はそもそも生産数が少なく計画されているだろうし、毎月コンスタントにつくられていないものもあって、発注動向次第で生産数が若干増えたとしても出来上がるそばから客が取り合うかたちになっているのではないか。

以前はさほど待たなくても手元に届いたが、現在は最長で3ヶ月かかっている私が更新した15mmは2ヶ月くらいかかった。もともとバカ売れするタイプのブランドでなく、コシナは他の自社製品のほかOEM製品を製造していてラインがたくさんある訳ではないので納期が前述のように長くなるのだが、それ以上にツァイス基準の検品が厳しく最終段階でハネられる個体が多いのも原因だ。余剰を在庫する間もなく、完成したらそのまま市場に流れる「つくっては出し、つくっては出し」だ。

検品が厳しいため初期不良やハズレが少なく(いまのところ私は聞いたことがない)、本格的に使用するまえにテストしなければならないのは他と同じだが不安感が圧倒的にすくない。

コシナ・ツァイスとソニー用ツァイスが同質のものかどうか、こればかりは中の人ではないのではっきり語ることができない。どちらもツァイスの基準で管理されているのは間違いない。

コシナとソニーではロイヤリティーの料率が違うだろうとは思う。コシナ・ツァイスはツァイスのカタログに載るレンズで、ソニー用はソニーのカタログに載るレンズだからだ。またソニー用は圧倒的な量を製造しているため、大量生産を見込んだ設計と素材が採用されているのは間違いない。一部をタムロンが造っていようが、どこが造っていようが関係なく。

またソニー用はオートフォーカスだが、コシナ・ツァイスは頑なにマニュアルフォーカスを堅持している。モーターのトルクに限界があるためレンズ設計の足かせになること、高性能化してもオートフォーカスは機械的に選択されたポイントに機械的に合焦させるシステムで限界があることからマニュアルフォーカスを信頼しているのだろう。このうちモーターのトルクに限りがある点は、光学系に重たいレンズとレンズ群が使用できない制限になり、全群繰り出しも無理になり常にインナーフォーカスを採用せざるをえない制限になる。また手ぶれ補正も実装されていない。

コシナが発言している通りOtus、Milvusの光学系を鏡胴に収めるにはかなり高度な設計と素材と組み立てが必要になるようだ。ありとあらゆるレンズを製造してきたコシナでさえこうなのだから、かなりの難易度なのだろう。こうして出来上がったレンズは、写りそのものだけでなくOtus、Milvusを手にとるだけで感じられる精密感とスムースな使い勝手にはっきり表れている。

こう書くとソニー用が劣っているかのように思われるかもしれないが、レンズの目的の違いと認識すべきだろう。

コシナ・ツァイスとの付き合いは即納でなければ前述の納期を待つことからはじまる。こればかりは発注するタイミングとコシナの態勢の関係なので一概に何日かかるとは書けないが、特約店で店員さんにコシナへ電話をかけてもらえばほぼ正確な納期を知ることができる。手持ちの機材を下取りに出す場合は、店側が融通をつけてくれて納品まで下取り品を手元で使用できる約束にならない限り、手放して支障がないか考えておくべきだ。

コシナ・ツァイスの価格はいまのところClassic以外ほぼ変動がない。他のブランドでは発売時に最高額をつけ半年か一年目で一旦最低額になり、その後また上げたり下げたりするのが一般的だ。中古価格は新品価格の影響を受けるので、上げ下げがほとんどないコシナ・ツァイスでは廃盤になるなどしない限りほぼ変動がない。いつ買っても変わりなく、コシナ・ツァイスを下取り・売却する時期も神経質に見極めなくてよいと言える。

Otus、Milvusを下取りに出して何に買い換えるのか、そうそう買い換える相手はないのだが、中古価格が安定しているということは下取り額が想定しやすく、また高く売却できることになる。もともと粘着テープなどへろい素材は使われず設計からして堅牢そのものの構造なので、大きな事故がないかぎり光学系や絞りはよい状態が続く。金属鏡胴とフードなので使っていれば塗装の小さなハゲはあたりまえにつくので、これだけで程度を大きく落とすことはない。中古価格の6割は固いだろう。

このため程度がよいコシナ・ツァイスなら上級クラスに有利に買い換えられる。ただ無印とClassicはMilvusが登場して時間が経過したことや、単価そのものが安いため一部の機種を除いて劇的に有利な買い替えは期待しにくい。

ツァイスでレンズを固めているおじさんがときどきいて、どんなに金回りがよいのかと思われるかもしれないが、初期投資以降はブランド内でうまく買い替えができるから可能なのだ。

とはいえコシナ・ツァイスは高くて金がかかると思われている。

日本のブランドにもよいレンズがたくさんある。コシナ・ツァイスは国内ブランドのよいレンズと別の価値観で設計されている点を、まずはっきりさせておこう。

フルサイズミラーレスが一般化し、特に標準から広角系ですば抜けた性能のレンズが各社から登場している。たとえばニコンZマウントの50mm F1.8はMilvusやOtusに匹敵するようなできだし、24-70mm F4ズームも恐ろしいくらいに写る。こうなると一眼レフ用のレンズに投資するのは馬鹿らしくなる。

私もFマウント用をやたらに増やすのは得策ではないと感じている。ただMilvus 135mmを総合的に超えるレンズはなかなか出ないと思うし、一眼レフの弱点である超広角のMilvus 15mmもミラーレス機に移行したらアダプター経由で使い続けるだろう。

Otusはコスト度外視でつくられていて価格にコストがそのまま反映されているので性能は驚異的だが価格も高い。とはいえMilvusはそれほどでもないと感じる。なぜならデジタル高画素化によってレンズ性能を極限まで高めなくては通用しなくなり総じてレンズ価格が高くなっているし、ミラーレス機用は小型化していないうえにやはり価格が高い。これからミラーレス機用の普及価格帯のレンズが出てくるだろうが、よいレンズは高値安定傾向を続けるだろう。

ズームレンズと単焦点を比較するのは難しいけれど、高性能ズームは30万円コースでも驚かない時代であり、焦点距離を伸ばしたり縮めたりする必要なんて端からない場合が多い。たいていは単焦点で済むところを価格が高い大口径ズームを買うくらいなら、Milvusは10万、20万円クラスなので高価すぎるとは言えないだろう。

撮影をはじめたばかりの人は、お金が余ってしかたないなら別としてコシナ・ツァイスを買う必要はない。まだレンズの扱い方がわかっていないだろうし、落とそうが傷つけようがガシガシ使うほうが先だ。

こうした経験を経たあとは話が変わり、ネットの情報や提灯持ちのカメラ評論家の言葉にまどわされて無駄なレンズ、ズームである必要のない焦点距離での買い物を繰り返すなら、ぐっとこらえて貯金してコシナ・ツァイスへの初期投資に回したほうが賢いと思う。新機種が出るごと数年単位で買い換えるような無駄をしなくて済むのがコシナ・ツァイスだ。大三元とか小三元とくだらないことを言いながら、やたらにレンズを買い替えて結果的に数十万円以上の出費になる昨今の在りようはどうかしていると思う。

諸収差に詳しくなったり頭でっかちなカメラ評論家もどきの知識がなくても、写真をこつこつ撮影していればそれぞれのブランドやレンズ個々に対して客観的な態度を取れるだろう。そうなったときコシナ・ツァイスが必要なら迷わず買って先々損はない。

レンタル会員登録をして、OtusやMilvusを使ってみるのがよいと思う。これがもっとも確実な買い方だろう。

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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