スポットメーターの使い途と賢い撮影について

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カメラ内蔵の露出計があればほとんど困らないのではないだろうか。したがって単体露出計を所有していない人がいても不思議ではないし、買ったはいいものの使わずじまいの人もまた多いのではないか。ストロボ等でライティングするケースでは意思通りの結果を得るにはやはり単体露出計は不可欠だ、と言ったところでブツ撮りやこうしたポートレイトを撮らない人にとっては使い途がないように感じられるかもしれない。

スポットメーターは「濃度を知るために使うといいよ」と何度か説明してきた。

入射光式の露出計の出目は、被写体が受けている光量を示していると考えよう。厳密に書くなら、乳白色の半球をレンズの光軸に向けて測光しているので、光軸が向いている面が受けている光量を示している。同じ光量を受けていても、物体の反射率によって撮影結果の濃度は変化する。入射光式の測光の出目で撮影すると、雪原や水面は反射率が高いので明るく、植毛された素材は反射率が低いので暗く描写される。目で見たままに近い結果と言える。

このように入射光式の露出計は物体の反射率に影響されない値を示す。白いものは白く、黒いものは黒く撮影できる値だ。マットなものはマットに、輝いているものは輝いているように撮影できる値だ。

いっぽうスポットメーター=反射光式の露出計の出目からは、物体が受けている光そのものの量はわからない。スポットメーターの出目は物体の反射率に左右され、どのような反射率であっても常に18%グレー相当の濃度にする値が示される。マットなものでも輝いているものでも常に18%グレー相当に撮影できる値を示す。スポットメーターを太陽に向けて測光して示された値で撮影すると太陽が輝きのないグレーになるし、雪原や水面のように反射率が高いものでは見た目より濁った状態になる。

ディスプレイは環境ごとの差があるので18%グレーそのものを表示しづらいが、だいたい以下の幅で見えているものだ。「実感では」と表現するのはおかしいけれど、人物の皮膚からの反射を測光したときの結果を思い浮かべたとき下の図形くらいの濃度が想像される。何れにしても、それなりに濃度がある。モノクロの古写真では人物の顔の濃度はこれらの幅に収まっているものが多い。

この「実感」する18%グレー相当の濃度は、ヒスパニック系のモデルさんにみられがちな健康的な肌の明度感に近いように感じる。美白的な表現を好むアジア人にとっては、18%グレー相当で描写すると苦い顔をされるかもしれない(そんな明度・濃度だ)。

反射光式の露出計のなかで限られた範囲だけを測光するスポットメーターは、遠い場所の明るさを測光するためにあるというのは明らかな間違いだ。そもそも反射光式の露出計では「明るさはわからない」。使い方としても、たしかに遠い場所まで行かなくても測光できるとはいえ、構図のなかの部分ごとの濃度がどの程度になるか知るためにあると頭を切り替えよう。遠くの被写体を測光するならカメラ内蔵の露出計をスポット測光にするだけで十分だ。

スポットメーターの出目のままなら18%グレー相当。入射光式の露出計の出目との比較で、入射光式露出計が示すまま撮影したとき濃度が何段濃く薄く描写されるか。スポットメーターで測光した箇所ごとでは、そのまま濃度の比較。といった使い方ができる。

私は風景や景観を撮影する際に、まず入射光式のメーターを使う。かなり荒っぽい方法だが順光、逆光それぞれの方向で入射光測光の値を見る。そして「あー、そうなのね」と納得する。これによって[この場所]の光量が把握できる。次に空や気になる箇所をスポットメーターで測光する。カメラ内蔵の露出計でスポット測光しないのは、何箇所か測光したり、入射光式のメーターの出目と比較する際に単体露出計のほうが手っ取り早く、値を比較し把握しやすいからだ。まず入射光式で測光するのは空間の反射率に左右されないこの場所の明るさを知りたいからで、これを基準にして露光値を考えるためだ。

入射光式のメーターで計測した値を基準にして、スポットメーターで計測した値を比較するのは前述の通りとして、前者の順光がF8・1/125だったとする。空をスポットメーターで計測した値がF8・1/500だったとする。F8・1/500で撮影すると空の濃度は18%グレー相当の濃度で撮影・記録される。しかしF8・1/125が空間を大まかに測光した結果だった。この値=F8・1/125で撮影すると空はとうぜん18%グレー相当の濃度を超えてオーバーになる。

空は2EV=2段オーバーの露光量が与えられていることになる。2段オーバーなら真っ白けにはならずトーンは残る。あとは2段オーバーの描写が適切かどうかの判断だけだ。

経験から言えば、この例の順光の空間F8・1/125で空が2段オーバーなら順当に明るい空として描写される。雲の明暗もたいがいは描ききれる(このためには空のどの部分を測光するか自分なりの経験値が必要ではあるが)。

これは私が使っているスポット測光値の補正スケールだ。見たままの濃度をほぼ表している。5が出目であり15%グレー。-3段の2から+2段の7までがトーンを出せる幅。これを超えると単独ではトーンは期待しにくい。「実感」する肌表現の濃度は6あたりで約1段の差でずれていることになる。空の表現では7の位置にあっても、空の明暗はさらに明るい8、9、10や7以下などが入り混じって調子をかたちづくっているのでトーン再現が可能だ。

地上に対して空が明るすぎて白とびに近い描写になってトーンが出ない値であったり、逆に暗すぎる結果になりそうなら撮影時にナニを重視して、RAW現像時にナニを補うか決定する。空の明暗や雲の調子を重視するなら、空を基準に露光値を決めればよいだろう。これで地上が暗く潰れ気味になるなら、RAW現像時に地上を明るく補う。計画しないでどっちつかずの露光量を与えたり、カメラまかせのオート露光でうまく行けば問題ないが、RAW現像で意図通りにならなかったり調整箇所が増えたりするのは誰だって避けたいところだ。

とはいえカメラの露出計はとても賢くなった。カメラ内蔵のメーターの出目で撮影しても困らないどころか、もしかしたら前述の方法で測光したのと同じ結果が出るかもしれない。では何が違うか、だ。

結果が同じだったとしても、事前に「どの部分がどのように写るか」を厳密に把握できるメリットがある。カメラの背面液晶でチェックするのは限界があるし(あまり頼らないほうがイイよ)、ヒストグラムを見てもわかるのはどの明るさがどれだけの量で分布しているかだけで、試し撮りばかり何カットも繰り返すのは馬鹿馬鹿しい。成り行きでよいなら必要ないが、画角内の明るさをちゃんとコントロールしたいならスポットメーターは有効だ。

余談だが、ヒストグラムを見ても適切な露光量かどうかわからない点について説明する。ヒストグラムは明るさの分布を示している。明るさ1の量、明るさ2の量……とグラフ化したものがヒストグラムだ。先ほどの例では、空のトーンを出したかった。どんよりした空でないなら太陽そのものが画角に入っているかもしれないし、太陽に近い方角はかなり明るいだろう。ヒストグラムで最大の明るさが飽和して見えても、そももそ飽和しているのが当然だったりする。これは暗さの飽和にも言える。分布と量の概念だけで、求めている露光結果かどうかはなんとも言えないのである。

さてみなさんは風景を撮影する際、どの部分がどの濃度になるかわかったうえで撮影しているだろうか。このカメラは、このレンズはハイライト側の描写が弱いとかアンダー側の描写が弱いと言い訳していないだろうか。もちろんこうした特性はあるが、特性を知ったうえで撮影時に塩梅するのが本筋だ。

風景を撮影するとき主たる被写体だけ思い通りになればよい訳ではなく、主役以外の部分も重要な意味を持っている。他人とは違う写真がどうしても撮れないとかオリジナリティーのある表現ができないなど悩みがあるなら、説明した方法を試みる価値があるだろう。

だったらスポットメーターだけでよいのではないかと思うかもしれない。もちろんそれでもよいが、何箇所も測光しなくてはならないし、何箇所も測光した結果を比較検討して答えを出さなくてはならないのが面倒だ。ざっくり空間の明るさを測光して基準にしたうえで、気になる箇所をスポット測光すれば済むのだから簡単なほうがよいに決まっている。天候が小刻みに変化しているときは別だが、入射光式の露出計で測光した値をカメラに設定したままバシャバシャ撮ることも可能だ。カメラ内蔵の露出計はレンズを向けた方向次第でころころ値が変わり、明るいものを明るく、暗いものを暗く撮るのに向いていない(常に画面全体の平均が18%グレー相当になるくらいの値を示す)ので、むしろざっくり明るさを測ってそのまま撮影したほうが結果がよい。

先ほど他人と違う写真やオリジナリティーのある写真が撮れないなら試すべきとしたのは、常に画面全体の平均が18%グレー相当になる撮影からサヨナラしようという意味だ。これは結構決定的で、構図云々より見た目の違いがはっきり現れる。

写真は常に「比率」でかたちづくられている。比率以外で写真をどうこしようと思っても不可能なのだ。

構図は比率だ。露光も比率だ。これらの比率をコントロールするのが写真の技法だ。

スポットメーターのメリットは風景撮影だけに限らない。静物でもポートレイトでも、まったく同じだ。

先ほどの風景の例を人工光源で撮るポートレイトに置き換えよう。誰もが入射光式の測光で被写体に与える露光量を決めているはずだ。この値を基準にして、人体の気になる部分や衣服などをスポット測光する、あるいは顔のハイライトとシャドーを測光するのだ。

たとえば(入射光)人体F8・1/125で、(スポット)衣服F8・1/30の値なら、ともに同じ照度で照らされていてもF8・1/125で撮影すると衣服はかなり暗く濃度が高く写る。どの程度の濃度になるかと言えば、18%グレーから2段暗い濃い濃度だ。同じ照度で照らされているのに描写される濃度が異なるのは、皮膚と衣服の反射率が異なるからだ。このケースでは衣服の反射率が低いということになる。いちいち試し撮りしなくても、メーターのボタンを押すだけでわかるのだ。しかも18%グレーから2段暗い濃い濃度とはっきり認識できる。(ここまで風景撮影の例と合わせるためシャッター速度を変えられる定常光を使用したように説明した。以下もこのままで書く)

厳密に比較したいなら、主に描写したい顔の明部とその他の暗部、衣服、背景をそれぞれをスポットメーターで測光する。これならすべて反射光測光で計測した値なので同等に比較できる。顔の明部がF8・1/125、暗部がF8・1/60と半。衣服がF8・1/30の値だったとする。この例が示す描写でよいなら、そのまま。暗部の描写が不適切ならライティングを調整しなければならない。

冒頭に18%グレー相当の濃度と肌表現について触れた。入射光式の露出計では肌表現の見当はついてもどうなるか確実な値としてはわからないと、ここまでの説明で理解できるはずだ。明るい色や明度のファンデーションなら見た通りに明るく、暗いファンデーションならこれも見た通り暗く写るのはわかる。撮影結果を経験から完全に想定できるならよいが、できないならやはり確かめるのが誠実な態度だろう。

肌表現は白ければよいというほどいい加減なものではない。肌のテクスチャをどのようにしたいか考えなくてはならない。そのまま撮って白いだけになるのが困るならメーターの出目から1/3〜半段くらい落とすなどしなければならないはずだ。逆の場合もある。撮影者の意図通りにしたいなら、入射光式の露出計とスポット測光の比較をすべきなのは説明してきた通りだ。

メークさんがつかない人物撮影では、男性はほとんどすべてノーメークであるし、女性でメークしている人は撮影用のメークをしている訳でも、撮影で求められる肌の明度を知っていてメークしている訳でもない。さあどうしますか? という話になる。

撮影者、撮影依頼者、被写体本人の意向しだいで肌表現の濃度の適切値が変わるのだし、民族ごと特徴があるのだから入射光式で測光した値でポンと撮ればよいとは限らないのだ。濃度はテクスチャをどれだけ表現するかにも関わっている。

最近はスナチャ等で加工する表現やオルチャンメイクの影響で肌表現が画一的で不自然に均一化したものが流行っている。これがよければこれでいいが、たいがいはどこかで見た通俗的な写真になる。そうするにしても、そうしないにしてもわかっていてやるのと成り行きとでは意味が違うのだ。

メークさんがメークしました。本人がメークしてきました。これだけでよいのか、である。

もちろん肌表現に限った話ではない。コスチューム、装身具、その他がどのように描写されるかでもある。

風景撮影でかなりズボラながら入射光式とスポットメーターで撮影する方法を書いたように、慣れてくればさほど手を煩わせなくても勘だけで最適解は導き出せるものだ。天候を見るだけ、被写体の状態とライティングを見るだけでよい場合だってあるだろう。でも勘で完璧に想定できないなら、スポットメーターで測光する方がよいに決まっている。

スチル撮影ではいい加減なやり方が横行しているけれど、映画では入射光式の測光とともに部分ごとスポット測光を使っているのは憶えておいたほうがよいだろう。

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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