人物撮影のほんとうの難しさについて

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この世にあるもののほとんどが被写体になるのだから、写真のテーマは無限に存在すると言えるだろう。

ところがスナップ写真のように写真の本質であり過去に大流行したものが現在では肖像権の問題から撮影が難しくなったりと、なにかとクリアしなければならない物事が増えてテーマにしづらくなっている。スナップ撮影以外では民族、宗教などに(それそのものがテーマであっても、たまたま映り込む要素であっても)触れざるを得ない場合は、テーマの扱い、表現手法、発表方法をかなり慎重に考えなくてはならなくなった。

こうした難しさは、撮影技術上の難しさをはるかに超えると言っても過言ではない。

国内外で高く評価されているAさんが「撮影を強要された」「意図に反した表現で発表された」「支払いがない」などとされたのは記憶に新しい。Aさん側にも言い分があるだろうし、モデルをつとめた人の話だけで第三者がとやかく言えるものではないが、これもまた写真にとってのひとつの時代が完全に終わったできごとだろう。

長らく飛ぶ鳥を落とす勢いだったAさんについて作品や動向を伝える報道や紹介記事や彼を特集する番組が、このできごと以来パタリと止まり静かになった。ご本人が拒否しているかもしれないが、メディアが世の中の空気を察知したとも言えそうだ。

この世でもっとも難しいのが人と人の関係であり、人物撮影では避けて通れないのが撮影者と被写体の関係だ。

お仕事写真の依頼を受けて取材したり、タレントやモデルを撮影したりする場合は相手との同意が形成されているし、撮影者と被写体以外に幾多のクリエーターや営業が介在するため個人対個人に発生する諸問題の危険性は限りなく低い。大きな資本を持った版元がいることは双方にとって保険にもなる。問題は「作品づくりの撮影」だ。

タレントやモデルは完成された商品(このような言い方は失礼だが悪意のないものと思っていただきたい)なので、作品のための撮影では商品ではない一般の方を写したいと考える場合が多い。タレントやモデルの撮影では事務所と交渉して条件が決まり、双方ともお仕事として万事が流れて行く。しかし一般の人ではこうはできない。

そして、写真の被写体にするのと絵画や彫刻のモデルさんにするのには違いがあるように思う。具象かつリアルに描画する絵画のモデルになれば、もしかしたら個人が特定できるくらいの作品になるかもしれない。写真では「もしかしたら」ではなくほぼ確実に「顔見知り」には個人が特定できるだろうし、姿形以外に雰囲気まで写りこむ。まあ私もメディアに頻繁に顔出ししていた時代があったが通りすがりの人にはわからなかったから、このくらいのものなのだが。

とはいえ、一般の人は撮影に際して考えていることや想定していることがまちまちだ。撮影されてうれしい人もいれば億劫に感じる人もいる。なかには専門家に撮影されることに過大な夢を抱く人もいる。願望や夢に限らずあらゆる見解の相違が、いつどこで「騙された」につながるかわからないのである。このため私は事前に十分説明をしているし撮影同意書を作成して双方の権利義務を明確にしている。それでもやはりタレントやモデルを仕事にしている人とは別の、しかももっと大きな問題は完全に解決されるとは限らない。

でもなぜ一般の人というか写真の被写体になることを職業にしていない人を撮影するのかと言えば、これらの人にない商品化されていない美点を反映させたいからだ。規格品からはみ出してしまうナニカが必要なのだ。ということで、いろいろな伝手を頼りに被写体になる方を探したり、この春からは公募もはじめた🔗(新型コロナ肺炎禍の影響を受け撮影計画が白紙になったため中止しました)。どちらの場合もモデルさんを雇うのと同等のお金を支払っている。こうした方々は日々のお仕事としてモデル業をこなしていないので、むしろ業として被写体になる方より支払額が多いケースもある。

前述のAさんはこうした難しい時代(あるいはみなさんの常識が変わった時代)以前の方法で撮影していたのだろう。また創作活動の出発点や意図や手法からして契約と相容れないものだったようにも思う。告発された方の気持ちが痛いくらいわかると同時に、Aさんを肯定しないまでも人格や作品まで否定しようとは思わない。私は前時代も知っているし、現在の事情も把握して撮影し続けなければならないというだけだ。撮影者=創作者のエゴだけで丸められる時代ではないのだ。

そこで公募だ。男女LGBTの違いを問わず私はモデルを求めている。年齢も問わない。公募するにあたっては思いつきだけで飛びつける方法はとっていない。エントリー時の個人情報はプロフィール写真だけにして不測の事態で被るかもしれない危険性をすくなくしているが、説明を読まないと公募方法に行き着かないようにしている。こうするととうぜん人の集まりは悪くなる。でも双方にとってメリットのある仕事・作品づくりにするにはこれくらいでちょうど良いと考えている。被写体になる方を保護するためにも、だ。

このページやこのサイトを読む人は撮影者側なので無関係かもしれないが、気になるところがあったら募集のページ🔗を観てもらいたい。全国区で募集していて、モデル然としているとかタレント風の方々だけを求めている訳ではないので、応募してくださるなら私は大歓迎だ。(新型コロナ肺炎禍の影響を受け撮影計画が白紙になったため中止しました)

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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