ニコンFマウント各タイプを整理する

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更新履歴
(2020.11.12/絞り機構に着目した分類図を追加)
(2019.2.5 / Ai-Pレンズについて記述を追加)

この記事の構成
□概要 / Fマウントは絞り周りの構造で把握すれば難解ではない

□カメラとレンズ間の開放F値連絡法、絞りの制御法の変化からFマウントレンズを分類する
……ニッコールオート

…………◎ポイント
…… Aiニッコール
…… Ai-Sニッコール
……..*レンズに実装されたガイドとノッチ画像
…………◎ポイント
…… Dタイプレンズ
…………◎ポイント

…… Gタイプレンズ
…………◎ポイント
…… Eタイプ
……オートフォーカスの種別
……サードパーティー製レンズの種別

□購入ガイド / おおまかな特性を知り使用するカメラの画素数と相談して決める

□概要 / Fマウントは絞り周りの構造で把握すれば難解ではない
ニコンFマウントは一眼レフニコンFのために制定されたマウントだ。ニコンFは1959年に発売されたのでニコンFマウントは2019年6月で60周年を迎える。現在ではマウント口径が小さくフランジバックが長いことによりレンズ設計に苦労が多いマウントだが、ニコンF発売当時はカメラの主流だったライカなど既存のレンジファインダー機を圧倒的に凌駕するレンズシステムの構築を目論んだものだった。60年におよぶ歴史があり、一部制約があるものの現行のFマウント機にレンズが装着できるため膨大な数のレンズ資産が中古市場で常に流通している。ただし現代のデジタルカメラで使用するには装着の可否だけでなく、設計年度が古いレンズはネガティブな側面を考えなくてはならない。個人的な覚書として、他の人々のガイドとしてFマウント各タイプについてこれまでに書いてきた記事と書き溜めていたものを元に整理することにした。

各タイプと書いたが、Fマウントは単純なタイプ分けで整理できるものではなく、複数のタイプ分けが重複しあいながらFマウントの系統を成している。このうち基本となる構造上の違いを以下のよう整理できる。

まず、カメラとレンズ間の開放F値連絡法と制御法で
1.非Ai
2.Ai
3.Ai S (Ai-P)
4.G
に分類される。

GおよびAi-Pを除くものはレンズ内にCPUを内蔵しているか否かで
1.非CPU内蔵
2.CPU内蔵
に分類される。

また、オートフォーカスに対応しているか否かで分類され、オートフォーカス対応レンズは、
1.モーター非内蔵(カメラ側モーター駆動)
2.モーター内蔵(AF-I、AF-P、AF-S)
に分類される。

オートフォーカスを本格的に取り入れたレンズは、
1.Dタイプ
2.Gタイプ
3.Eタイプ
に分類される。

これらさまざまなレンズがFマウントレンズとして中古市場に溢れている。ニコンユーザーなら各系統におおよその見当を付けられるが、他社製カメラのユーザーは複雑すぎて考えるのも嫌になるだろう。増築に増築を重ねて構造が複雑になった古い木造旅館のようなものだ。

Fマウント

冒頭からややこしくしたくないが、概略だけ頭に入れてもらうため複数のタイプ分けが重複する例を挙げる。

上記した「Ai S」に見覚えのある人が多いと思われる。そして「Ai S」といえばマニュアルフォーカスレンズと思い込んでいるのではないか。たしかにレンズ名にAi-Sが付くレンズの代表格が、1980年代に設計され販売されたマニュアルフォーカスレンズだ。しかしDタイプレンズ(レンズ名称の開放F値のあとにDが付くレンズ)の正式な呼称は「Ai-S AF ●●mm F●D」であり、名前の先頭に「Ai-S」がついている。Ai-Sが付く理由はレンズからカメラへ開放F値を連絡する方法と絞りの制御方法がAi S方式だからだ。つまりDタイプレンズはAi-Sレンズなのだ。

CPUを内蔵しているものはオートフォーカスレンズだけでなくマニュアルフォーカスレンズにもあり、CPUを内蔵していないオートフォーカスレンズもある。またDタイプレンズはカメラ側のモーターでオートフォーカス機構を動かすものが多いため、記号「D」でモーター非内蔵オートフォーカスレンズを表していると誤解されがちだ。正しくは記号の「D」=「Distance」の頭文字で撮影距離信号をカメラに伝えられるレンズ(距離エンコーダ内蔵)を表し、オートフォーカスの種類とはまったく関係ない。またDタイプでオートフォーカではないレンズも存在している。Dタイプレンズの後に登場したのがGタイプレンズで、Gタイプもまた距離エンコーダ内蔵レンズであり、「G」は新時代レンズを意味する「Genesis(創世記、起源、発端)」の頭文字で機能を意味するものではない。

このように一見複雑怪奇に入り組んで見えるFマウントレンズだが、絞り周りに着目して非AiAiAi-SDタイプかGタイプかEタイプかを見分ければほぼ全容が理解できる。そのうえで、非CPU内蔵かCPU内蔵か、モーターを内蔵しているならAF-I、AF-P、AF-Sかを把握すればほとんど困ることはない。もしこれら以外の特徴や名称のレンズと出会った場合は、その都度検索するなどして調べれば済むだろうし、こうした例外的なレンズとは滅多に出会わない。現在中古市場に流通しているFマウントレンズのほとんどがAi-S、Dタイプ、Gタイプだ。

結論を先に書くなら、中古市場からレンズを調達するならAi-S方式、Dタイプ、現在進行形のGタイプとEタイプを選ぶべきだ。これら以外のレンズはカメラに装着できてもカメラ側の機能を一部しか使えなかったり、機種によっては装着できるだけで終わる可能性がある。また時代なりの光学技術が反映されているから、トイカメラのように面白レンズとして使ったり、研究目的などでないならAi-S以降に設計されたものがよい。時間とお金の余裕がふんだんにあるチャレンジャーを自認する人がAi-S以前のレンズを買えばよいだろう。

では、ニコンFマウントの変遷の根幹にある絞り周りの構造から系統を整理しようと思う。非Ai、Ai、Ai Sとは何かわかれば、Fマウントはほとんどわかったようなものだ。

□カメラとレンズ間の開放F値連絡法、絞りの制御法の変化からFマウントレンズを分類する

─ニッコールオート
ニコンFとともに発売されたレンズが「ニッコールオート」だ。衝撃的だったライカM3の出現にレンジファインダーで対抗する難しさを感じたニコンが、より広範囲の撮影を実現するカメラシステムとして一眼レフを選択しニコンFを開発した。一眼レフのメリットは超望遠レンズまでを装着して使用できる点にあり、ニッコールオートには超広角から超望遠まで順次ラインナップされた。

ニコンFは露出計を内蔵していない一眼レフで、ペンタプリズム部を露出計内蔵タイプ(名称「フォトミックファインダー」等)と交換することで外部測光やTTL方式(レンズを通った光を測光する方式)の機能を加えられるように設計されている。1950年代から60年代、はたまた70年代初頭はプロユースのカメラには露出計を内蔵しないほうが適しているとされていて、フォトミックファインダーは特殊な用途向けと考えられていた。このためニコンFマウントシステムは、レンズからカメラへ開放F値を連絡する機構が実装されていなかった(詳しくは後述)。ニコンF2が登場するまでにニコンは露出計を組み込んだカメラを発売しているが、ニコンF2でさえフォトミックファインダーを装着しなければ露出計が連動しない。ただしニコンF2はフォトミックファインダー付きのほうが一般的であったし、F3ではボディー側に露出計を組み込んだものになっている。カメラに装着したり内蔵させる露出計で不可欠なレンズとカメラの間の絞り情報の伝達と絞り制御の方法の変遷が、Fマウントレンズの変遷であり系統の根幹を成している。

ニコンF用の初代フォトミックファインダーはTTL方式ではなく外部測光方式だった。外部測光方法式は反射光式単体露出計同様に測光窓から得られる光を測光するもので、単体露出計との違いはカメラに装着したレンズがどれだけ絞られているか、カメラに設定されているシャッター速度は何分の1秒か、ピンなどで機械的にフォトミックファインダーに伝える点だけだ。初代フォトミックファインダーは外部測光法式のためレンズの開放F値と無関係で、露光値を決めるとき絞値とシャッター速度が連携されて便利に使えればよいだけだった。フォトミックファインダーを覗きながら絞りリングを回してどこで適正露光になるかわかればよかったのだ。絞り値をフォトミックファインダー(露出計)に伝達する機構が通称カニ爪と呼ばれる爪だ。レンズの絞りリングと連動して動くカニ爪で、フォトミックファインダーのピンを動かしている。ニコンのレンズと言えばカニ爪といわれるくらい特徴的な仕組みだ。

フォトミックファインダーには初代から最終型まで、レンズのカニ爪から絞り値を受け取るピンと、設定されているシャッター速度を受け取る噛み合い部があった。撮影者側から見てフォトミックファインダーの右側はシャッター速度ダイヤルまで伸びていて、シャッター速度ダイヤルにかぶせて噛み合わせて連結する仕組みになっている。フォトミックファインダーでの露出の合わせ方は、ファインダー内(外部にも指針窓がある)のメーターの針を定位置に合わせたり、追針と呼ばれるターゲットを合わせることで操作する。いわゆるマニュアル露出であり、絞りリングを回すか、シャッター速度ダイヤルを回してファインダー内の針を合わせることで適正露光値にする。こうしたメーターを使ったことのない人にはぴんとこないかもしれないが、絞りリング(またはダイアル)とシャッター速度リング(またはダイアル)の操作は、現代のカメラでファンイダー内の情報を見ながらマニュアル露出する方法と同じだ。

◎ポイント:ニコンFの時代には、まだ自動露光(AE)はまだ開発されていない。ではニッコールオートの「オート」は何を意味しているのか。

「オート」は、絞りが撮影時だけ絞り込まれ、撮影が終わると絞り開放に戻る動作が自動化されているのを意味している。撮影前は絞り開放状態で、絞り開放の明るい像でピントを合わせ、シャッターを切ると設定した絞り値に絞り込まれ、撮影が終わると再び絞り開放に戻るのだ。これは現代の一眼レフのレンズではあたりまえだが、1950年代当時のレンズの大半はこれらが自動化されていないか半自動だった。

一眼レフはレンズが結ぶ像をファインダーで見るカメラなので、画角内のどこでもピントを合わせられ、しかも正確に構図を取ることができる。唯一レンジファインダーより劣っていたのは、レンズの明るさがファインダー像の明るさに影響するため開放F値が暗いレンズを使ったり、絞り込んだ状態ではピントを合わせるのが困難な点だ。

このため初期の一眼レフは、ピント合わせの際は絞りリングを回して開放にし、シャッターを切る直前に手動で所定の位置まで絞り込んで、撮影後はピントを合わせやすいように絞りを再び開放にしなければならない。やや進化したレンズでは、絞りリングと別にプリセットリングがあり、プリセットリングを使いたい絞り値にしておき、絞り開放のままピントを合わせたら、ファンイダーを覗いたまま絞りリングがプリセットリングの働きで止まるまで回し、シャッターを切った。この種のレンズもまた撮影後は絞りリングを回して絞り開放にしなければならない。後者はたかだか絞りリングがプリセットした位置で止まるだけだが、すべて手動のレンズから使い勝手が格段に向上した。この仕組みのレンズを「プリセット絞りレンズ」と呼び、半自動化されたレンズだ。

ニッコールオートはレンズはシャッターを切らない限り常に絞り開放なので、ピント合わせはそのまま行い、シャッター切ると実絞りになり、撮影終了とともに再び絞り開放になる現代のレンズと同じ動作をする。撮影時の絞り込みだけでなく、絞りの復帰も自動化された点が画期的だった。プリセット絞りレンズが既にあったので、ニコンはニッコールオートを「自動プリセット絞り」と呼んだが完全自動絞りである。

この時代のニッコールレンズは、Auto、Auto(C)= マルチコート、New=マルチコートかつデザインが一新されたものに分類される。Autoは単層コート、Auto(C) は多層膜ではあるが、二層、三層でも多層であり現在のマルチコートと効果を同一視できず、すべてのレンズ面がコートされているとも限らない。

レンズ名についているT、Q、P、H、S、Oは、T=トライ(構成枚数3枚)、Q=クォート(構成枚数4枚)、P=ペンタ(構成枚数5枚)、H=ヘキサ(構成枚数6枚)、S=セプタ(構成枚数7枚)、O=オクト(構成枚数8枚)を意味する。さらにUD=(構成枚数11枚)、QD=(構成枚数14枚)がある。マルチコートが施されているレンズは、OC=(構成枚数8枚コーテッド)のようになる。

─ Aiニッコール
外光測光からTTL方式を採用する段階で、ニッコールオートレンズは次に挙げる点が問題になった。

TTL方式かつ絞り開放測光で露出を決めるなら、レンズの開放F値を露出計に伝えておかなければならない。レンズの開放F値がわからない状態では、絞り開放時にレンズを通った光を測光しても外界の明るさの絶対値がわからない。開放F値がF1.4のレンズとF2.8のレンズでは、絞り開放のときファインダー内の露出計に届く光は2段(2EV)違い、これでは何を基準に露光値を決めたらよいかわからない。

ニコンFのサブ機として登場したNikomat FTでTTL開放測光の露出計が内蔵された。だがニッコールオートにはレンズの開放F値をカメラの露出計に伝える仕組みが実装されていない。このためボディ側に開放F値補正目盛りが付けられレンズを交換するごと手動でレンズの開放F値を登録した。ボディー側マウントの周囲にあるF1.4 ● F2 ● F2.8 ● F3.5 ……刻まれた目盛りを合わせるのは面倒であり、うっかり登録を忘れると適正露光値を得られず失敗の原因になった。そこで直後に「開放F値半自動設定」通称ガチャガチャ方式がカメラまたはフォトミックファインダーに実装されるようになった。なお、この段階ではレンズはまだAuto、Auto(C)、Newの各ニッコールで、レンズ側ではなくカメラ側で対応したのだ。

ガチャガチャ方式は、1.レンズ装着前にレンズの絞りをF5.6に合わせる。 2.レンズのカニ爪と露出計のピンを噛み合わせてレンズを装着する。 3.レンズがマウントされたら、レンズの最小絞り値まで絞りリングを回して、以前に登録された開放F値をリセットする。 4.最小絞り値から反対側へ開放F値までリングを回して開放F値を登録する。という手順を踏む。

これもまた面倒な手順を踏んでいる。そこで1977年に「開放F値自動補正方式」(Automatic Maximum Aperture Indexing = Ai)が実装された。ここでAuto、Auto(C)、New各ニッコールは終わり、Aiレンズの時代になる。

Ai方式はレンズをアンマウントする(外す)だけでカメラ側に登録されているレンズの開放F値がリセットされ、新たにレンズをマウントするだけで装着したレンズの開放F値が登録される。現代のレンズとまったく同じである。FマウントのままAi方式を実現しているのでオートニッコールに新機能を増築したと言ってよいだろう。最大の変更点はレンズ側に開放F値を示すガイドが、カメラ側にはガイドによって押される露出計連動レバーが組み込まれたことだ。また、いままでカニ爪でレンズが何段絞られているか伝える仕組みは、レンズ側のガイドを使って伝える仕組みに変えた。ガイドもカニ爪も振る舞いは同じだが、レンズを装着する際にいちいちピンに爪を合わせる必要がなくなり、レンズをマウントするのが簡単になった。こうしてカニ爪は不要になったが、互換性を保つためAi以降のレンズで、Dタイプでオートフォーカス化されるまでカニ爪はレンズに残された。

開放F値を伝える開放F値連動ガイドは、レンズ後端のマウント内部に置かれた。近年の安価な価格帯のカメラでは、Ai方式の開放F値伝達方式が必要ないCPUを使った通信方式を前提にしてレバーが省略されているものがある。この種のカメラはAi方式を採用するレンズを装着できても露出計と連動させることができない。また、絞り値を伝えるガイドもカメラ側マウントの外周についているレバーを押して情報を伝えるため、やはりレバーが省略されているカメラでは使用できない。

ニコンのガチャガチャ方式は独自のものだが、カニ爪やガイドは特に珍しいものではなく他社も同様の仕組みをレンズに実装させている。ニッコールオートへのAi方式の建て増し工事は、取り立てて特殊な例ではなかった。

Ai化されたレンズが発売されたとき、ニコンは従来方式のレンズであるニッコールオートを所有しているユーザーにAi改造プログラムを提供したので中古市場には非Aiを改造したAiレンズも流通している。

TTL開放測光を採用したのはニコンだけでなくバヨネットやスピゴットマウントを使うメーカーで、対してM42スクリューマウントを使うペンックス等は絞り込み測光を続けざるを得なかった。バヨネットやスピゴットマウントはレンズがボディーの定位置で固定されるが、レンズをねじ込むM42ではネジ山の切り始めと終わりを厳密にできないだけでなく力加減次第で固定される位置が変わるためレンズからボディーへ情報を伝える機構を組み込んでも正確に連動できなかったからだ。Ai方式の同様のガイドをレンズに実装しても、レンズが固定される位置がずれるのでカメラ側に正確に開放F値を伝達できない。

M42を採用しているメーカーは後にレンズ固定位置を規定するピンを付加するなどして開放測光に対応したが、各社独自規格であったためユニバーサルマウントのはずのM42が各社各様のものになった。M42を採用していたメーカーの中には独自の仕様を盛り込まず、開放F値の伝達はさせず、シャッターを切った瞬間の絞り込んだ状態で測光して自動露出を実現したものもある。

─ Ai-Sニッコール
Ai方式はTTL測光を使って、マニュアルで絞り値とシャッター速度を決めることまで想定していた。同様の方式を採用した他社も事情は同じだった。カメラ各社がAEを採用しはじめたとき、ニコンはAi方式のレンズで可能だった絞り優先優先AEを採用する。キヤノンなどがシャッター速度優先AEを採用したのは、絞り値が重要な意味を持つ撮影ではマニュアルで露光値を決め、速写性が求められる場合はシャッター速度を元に露光値が決まるシャッター速度優先AEが優れていると考えたためで、このとき絞りを所定の位置まで絞るのに適した構造が既に実装されていたからだ。この段階では両優先、プログラムムAEはまだ存在しない。やがてニコンのカメラにもシャッター速度AEを求める声が出てきた。指定したシャッター速度で適正露光値になる絞り値まで絞り込むには、Ai方式では絞りの正確なコントロールが不可能だった。

1980年、絞りとシャッター両優先(原理的にプログラムAEも可能)にするため、レンズ側で絞り制御の適切化が行われ、適切化されたシステムはAi-S方式となった。適切化であって、制御方法からレンズの機械的構造まで一新しなければならないものではなかった。またレンズタイプ、焦点距離をカメラ側に伝えるノッチ類が追加された。Ai-S化とともにスーパーインテグレーテッドコーティングが採用されはじめる。これがAi方式とAi-S方式の違いだ。

このときニコンはAiレンズをAi-Sに改造するプログラムをユーザーに提供したので、改造Ai-Sレンズが中古市場に存在している。

1980年代以降に登場したニコン製フィルムカメラや現在のニコン製デジタルカメラでシャッター速度優先AEやプログラムAEを使用するにはAi-Sレンズでなければならない。

Ai-Sでは新たなリッジ・ノッチ類が追加され、Ai-Sタイプで距離エンコーダ内蔵のDタイプにも実装されている。追加されたものに焦点距離識別リッジ、レンズタイプ識別ノッチがある。焦点距離識別リッジは前述のAi方式で実装された開放F値ガイド同様にレンズ後端近くにある。レンズタイプ識別ノッチは、レンズ後端にある凹みだ。焦点距離識別リッジは、焦点距離が135mm以下のレンズを識別して、手ブレ防止のためプログラムAEを高速プログラムに切り替えるため使用。レンズタイプ識別ノッチは、AiレンズとAi-Sレンズの区別用であり、ボディ側のピンで対応するがニコンF4でだけ使用され後のカメラでは使われていないと思われる。対応するボディはF4だけだが、いまだにGタイプでもノッチが残されている。

なおAi-PはAi-SかつCPUによって情報伝達を行うレンズだ。

このほかにもレンズ周りにガイド、レバー、カメラ側に対応するピン等が加えられているが煩雑になるため割愛する。

これまでに説明したガイドやノッチの画像を以下に示す。

◎ポイント:1970年代に入るとレンズの設計にコンピューターでの計算が多用されるようになり(間もなく完全に移行)、マルチコートがごく普通に採用されるようになった。1980年代以降はこうした技術がさらに高度化する。

1974年ヤシカがコンタックスブランドの一眼レフとカメラを発売し、このときツァイス銘のレンズはドイツの設計思想を反映したもので当時日本の写真界に衝撃を与えた。それまで日本製のレンズは解像度主義で階調性を重視していなかったし、カラーバランスと発色についても重視していなかった。現代に続く階調性とカラーバランスの重視はこのとき生じたので、日本製レンズに反映されるのは1974年から数年待たなければならなかった。レンズ設計が高度化され階調性、カラーバランスの適切化が勧められたレンズを中古市場から探すなら、1970年代後半以降発売のものにするのがよいだろう。FマウントではAi-S以降だ。

思えば、Ai方式とAi改造サービス、更に建て増しのAi-SへとニコンはFマウントを増築の繰り返しで多機能化させたが、いずれかの段階でFマウントを捨てていればその後に続くレンズ設計の苦しみなかっただろう。Ai-Sの段階でFマウントは30年ほど経過しているのだ。だがAi-Sの段階でも旧方式のレンズを使用していたり、旧方式のカメラを使用しているユーザーが多数いて互換性を考えFマウントを捨てられなかった。30年は長すぎるが、現在でも1980年代に設計されたAi-S方式のレンズが新品で販売され、登場から30年近く経過するDタイプもまたカタログに残されていて、これらのレンズをデジタルカメラに装着しているユーザーが多数いる。これらのレンズは最新の設計でないため様々な問題があったとしても実用に耐えているのだから、Ai-Sに切り替わるときもユーザーの切り捨てはできなかったのだろう。驚くことにDタイプレンズの中には高画素デジタルカメラで性能を発揮できるものがあり、マウント径が小さくフランジバックが長いFマウントと格闘しながらニコンのレンズ設計者は高度なレンズをつくり続けてきたことになる。

(ここまででも膨大なので一休みすることをお勧めします)

─ Eシリーズレンズ
1980年にニコンEMが発売された。廉価版ニコンであるEMに合わせて、コーティングの単層化、鏡胴のエンプラ化、機構の単純化をはかったEシリーズレンズが発売された。基本はAi-Sなので同列に考えてよいが、カニ爪が省略されたためカニ爪での連動が必要なカメラには装着はできても絞り込み(実絞り)測光でしか使えない。レンズラインナップも28mmから75-150mmズームまでで、広角から中望遠までしか揃えられていない。

─ Ai AFタイプレンズ
1980年代はオートフォーカス化の時代だ。試作品ではないニコン初のオートフォーカスレンズは1971年に発売されたニコンF3AF用のAi AF 80mm、200mmとテレコンバーターだった。この三種はニコンF3AF、ニコンF-501、ニコンF4、ニコンF4S、ニコンF4Eでオートフォーカスレンズとして使用できる。また、これらのレンズには信号接点があるがCPUは搭載されていない。CPUが搭載されたのは「Ai AF ●●mm F● S」と名付けられたレンズからだ(名称末尾にS)。

SがつかないAi AFは、当時の既存のカメラに装着してオートフォーカス化するレンズなので、とうぜんボディー側にレンズ駆動モーターは搭載されてなくレンズ側にモーターを持っていた。

「Ai AF ●●mm F● S」はレンズはレンズ内にオートフォーカス駆動用のモーターを持たず、カメラ側のモーターを使用してフォーカスを合わせる。したがって現行のカメラに装着した場合、カメラ側に駆動モーターを持たない機種ではオートフォーカスが使用できない。

レンズそのものではないが、CPU搭載レンズと連動できるカメラのボディーキャップはBF-1A以降でなければならない。Ai AF S以降のボディーつまり現在使用されているデジタルカメラが該当する。BF-1A以前のボディーキャップはカメラ側接点と干渉するため故障の原因になるので注意したい。

─ Dタイプレンズ
1992年から「Ai AF ●●mm F●D」と名付けられたDタイプレンズが発売される。DタイプはCPUのほか距離エンコーダを内蔵するオートフォーカスレンズで、カニ爪がないためカニ爪必須のカメラでは絞り込み測光になるが、ニコンは爪を追加するプログラムを実施しているためDタイプかつカニ爪付きのレンズが存在している。カニ爪がついたDタイプレンズとして出荷されたものはないので、中古市場にあるカニ爪付きはすべて改造Dだ。Dタイプレンズは距離エンコーダを採用しているため、露出制御や調光制御を緻密に行える。3Dマルチ測光、マルチBL調光が使用できる。

現行のボディー側ダイアルから絞り値を設定するカメラでは、レンズの絞りリングを最小絞りで固定して装着しなければならない。これはD以前のレンズでも同じだ。絞り値をボディー側から操作しない古いカメラでは最小絞りに固定する必要はない。

名称からわかるように一部例外を除いてAi-Sタイプでもある。電磁絞りを採用しているPC-Eタイプ(シフトレンズかつEタイプ)はAi-Sではない。Ai-Sの詳細については前述の項目を参照してもらいたいが、Ai-Sは開放絞り値と設定絞り値の連絡と絞り制御についての方法なので、電磁絞りを採用すれば別種になる。

Dタイプレンズの多くがレンズ内モーター非搭載だが、「Ai AF-I Nikkor D」/ コアレスモーターを内蔵、「Ai AF-S Nikkor D」 / SWM・超音波モーター内蔵のタイプもある。またオートフォーカスが採用されていないDタイプでもある。

◎ポイント:Dタイプレンズは登場から30年近く経過している。では現行のGタイプと比較して圧倒的に性能が劣るのかとなると、レンズごと事情は違うとしても解像度だけではGタイプの同種のレンズを上回るものもある。ただしデジタル化以前に設計・開発されたものなので、コーティングひとつとっても万全なものとは言えない。主観的には、Gタイプほど万能ではないがすぐれたものがあり、ただしパープルフリンジ等の問題を抱えるものあるし、写りが古典的で現代的ではないと感じる。像面の平滑性が甘めのものがあり、収差の残し方もAi-S時代に通じるものだ。

詳細は後述するが、Dタイプ以前のレンズはカメラ側画素数によって描写の性格が激変する。D800、D810ではそれなりに良好な写りだったものが、D850ではフリンジの発生や甘さが極端に出る場合がある。したがって誰かが作例と評価を発表していても、それは何画素のカメラで撮影し評価されたものか注意しなければならない。また画素数だけでなくセンサーの性格によっても変わるように感じられるので、この点にも注意すべきだ。

オートフォカスのDタイプレンズのヘリコイドは、レンズ側にマニュアル、オート切り替えリングがついている。ノッチを押し込み回転させる機構で使い勝手は悪くない。この切り替えで内部機構をつないだり切り離したりするため、オートフォーカスレンズにありがちなスカスカなヘリコイドではない。この点は現行Gタイプの廉価版レンズより優れている。ただしDタイプで超音波モーター内蔵モデルはごく限られほとんど無いに等しいので、速度は速くなく、それなりに作動音がする。オートフォーカスを多用しない人にはデメリットではないだろうし、ヘリコイドの動きのよさはむしろメリットになる。商品写真を見るとDタイプはやや安っぽく感じられるかもしれないが、実物は悪くなくつくりもしっかりしている。

─ Gタイプレンズ
レンズ本体に絞りリングを持たず、ボディ側から絞り制御を行う新機構のレンズを「Genesis(創世記、起源、発端)」の頭文字を取ってGタイプレンズと呼ぶ。レンズ名称は「AF-S Nikkor ●●mm F● G」となり、APS-Cフォーマットに準拠したDXフォーマット用のイメージサークルが小さいレンズは「AF-S DX Nikkor ●●mm F●G」となる。Gタイプから非Aiタイプとなる。

CPU、距離エンコーダはDタイプから継承され、すべてのレンズに搭載されている。モーター内蔵タイプと非内蔵タイプがある。

Dタイプの登場は本格的なオートフォーカス対応だったが、Gタイプはカメラのデジタル化に即したもので、古いカメラとの互換性を切り捨て機械的連動系を整理している。いまだ完成されていないが(ミラーレス化で登場したZマウントのように)完全電子化を狙ったものであり、絞周りの情報伝達は電子的に行われる。ただし撮影時に実絞りまで絞り込む制御はこれまで同様に機械的に行われ、電磁絞りを採用するレンズはEタイプだ。

センサーを用いるデジタル写真では、フィルムを使用していた場合より歪曲を除く収差補正が厳密でなければならず、さらにコーティングも次元が高いものでなければならなくなった。このうちコーティングではナノクリスタルコーティングを採用したレンズが現れ、従来からのスーパーインテグレーテッドコーティングを採用するものでも後玉とセンサー間の反射問題を解決するコーティングが採用されている。後玉のデジタル対応コーティングは、この段階でカタログに載っていたAi-SとDタイプにも順次施された。後玉が対策されているがこれだけでは万全でないし、他の要素もからむためAi-SとDをデジタルで使用するとき何らかの問題が現れることがある。

Gタイプは非Aiタイプのため、Ai方式で採用されたレンズ側のノッチやレバー類が省略されているが開放F値連動ガイドは残されている。カメラに装着する前は常に最小絞りであり、そもそも絞りリングがないがDタイプレンズのように絞り値を最小に固定する必要がなくなった。このためCPU連動のないカメラ側から絞りを操作できないものはレンズを装着できても使用はできない。CPU連動のあるカメラでも一部機能が制限されるものがある。ただし、現行のデジタルカメラではこれらの点は考慮しなくてよいだろう。

◎ポイント:DタイプとGタイプの決定的違いは非Ai化であり絞りリングの省略にある。現行のニコン製デジタルカメラを使用する人にとっては絞りリングの有無はほぼ関係ないが、旧型機、ベーローズ等のレンズとカメラ間に装着するアクセサリーの使用では絞りリングがないことでのデメリットが大きい。また他社製カメラにアダプターを介してレンズを装着する場合も、Gタイプは絞り操作がカメラ側からできなくなり(アダプタ側で対策しないかぎり)使用できない。

GタイプとDタイプはセンサーを前提にしているかフィルムを前提にしているかで決定的な違いがある。Gタイプですら、初のハイレゾリューション機D800では推奨レンズとしてニコンが最適なレンズをリストアップしていたくらいだ。このため前述のようにDタイプ以前ではカメラの画素数しだいで写りが激変するのは注意しなければならない。D800、D800E発売時の推奨レンズを転載するが、これ以後に発売されたGタイプレンズ、この中からディスコンになり新レンズに更新されたものもあるので参考にする際は気をつけてもらいたい。

  • AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8 G ED
  • AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED
  • AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED VR II
  • AF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR
  • AF-S NIKKOR 24-120mm F4 G ED VR
  • AF-S NIKKOR 200-400mm F4 G ED VR II
  • AF-S NIKKOR 24mm F1.4 G ED
  • AF-S NIKKOR 35mm F1.4 G
  • AF-S NIKKOR 85mm F1.4 G
  • AF-S NIKKOR 200mm F2 G ED VR II
  • AF-S NIKKOR 300mm F2.8 G ED VR II
  • AF-S NIKKOR 400mm F2.8 G ED VR
  • AF-S NIKKOR 500mm F4 G ED VR
  • AF-S NIKKOR 600mm F4 G ED VR
  • AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED
  • AF-S VR Micro-Nikkor 105mm F2.8 G IF-ED

このとき推奨されていないGタイプ、これ以後発売された安価帯のレンズを使用したことがあるが、高倍率ズームでは思うような結果が出ていないがおおよそGタイプなら更なる高画素機でも問題なく使用できる。

─ Eタイプレンズ( Eシリーズとは別物)
いまだ数は少ないが、電磁絞りを採用したレンズ。機械制御の絞りである必要はないのでメリットが多いが、電磁絞りに対応していないカメラではレンズを使用できない。

□オートフォーカスの種別

モーター内蔵のレンズは次のように分類される。

─ AF-I(コアレスモーター内蔵レンズ)
AF駆動用のコアレスモーターをレンズ内に内蔵しているレンズ。CPUを内蔵し、かつDタイプ。Ai AF-I Nikkor ED 300mm F2,8D(IF)など。

─ AF-S(超音波モーター内蔵レンズ)
SWM (超音波モーター) を内蔵。Gタイプの印象が強いが、Ai AF-S Nikkor ED 300mm F2.8D(IF)などDタイプにも存在する。

─ AF-P(ステッピングモーター内蔵レンズ)
「P」は「Pulse Motor」。STM(ステッピングモーター = パルスモーター)を搭載したレンズ。SWS使用のAF-Sレンズに対して、次代のレンズとして登場。高効率で作動音も小さい。

それぞれの方式を使用できるカメラ、使用できないカメラがある。

(ここまででも膨大なので一休みすることをお勧めします)

□サードパーティー製レンズの種別

ニコンFマウントを採用するサードパーティー製レンズも当然、Ai、Ai-S、D、G、Eの別がある。あたりまえだがこれらには、Ai、Ai-S、D、G、Eといった呼称はなく、時代と時期ごとのニコンボディーに適合するようにつくれられてきた。

メーカーがどの規格に準拠しているか公表していないなら、ここまでに説明してきたどの特徴を持っているかで判断するほかない。

たとえばツァイスのMilvus、OtusはCPU付Ai-Sである。ツァイスはCPU付きAi-Sと公表している。ボディ側から絞り制御を行うGタイプではないが、CPUは内蔵していて距離エンコーダを持たないのでDではない。したがってニコンの呼称を厳密に採るならAi-Pレンズだ。Ai-Sによる絞り動作の適切化が行われているのですべてのAEモードを使用できる。

つまりAi-SでCPUを搭載するAi-Pレンズであれば現代のカメラに幅広く対応できることになる。

タムロンの85mm F1.4 F016はEタイプである。ボディ側から絞り制御を行い、CPUと距離エンコーダを内蔵しているが電磁絞りを採用しているためGではなくEになる。

ここまでの説明でどの種別までが実用に耐えるかといった評価をしてきたが、サードパーティー製のレンズは念頭に置いていない。またツァイスのようにGタイプレンズが登場したあとAi-Sを開発・発売しているなら、技術の時代性を背景にした評価はとうぜん当てはならない。

□購入ガイド / おおまかな特性を知り使用するカメラの画素数と相談して決める

[不変のFマウント]だが、すべてのレンズとすべてのカメラとの組み合わせで完全動作するとは限らないのはここまでの説明の通りだ。カメラの機種によっては装着できるが、まったく使えない組み合わせがある。煩雑なのでフィルムカメラを省くが、現行のデジタルカメラで現在ニコンのカタログに載っているレンズであっても機種もある。これらの組み合わせについてはニコンのサイトで最新情報をチェックするのが確実だ。

ニコンFマウントに限らず中古レンズは必ず使用しているカメラに装着してファインダーを覗き、各部の動作を確認して買わなければならない。通販を利用するなら、相場を理解したうえで、その店のランク付けの傾向も理解して、特定の店から買うべきだろう。もっともよいのは、特定の店のショーケースを折につけ眺めて出物を探ることだ。

よいレンズとは各自にとって使える、使い所がはっきりしているレンズだ。性能がよいレンズ、故に万能的なレンズはストライクゾーンが広く、より多くの人にとってよいレンズである可能性が高いだけだ。自分にとっての「使える」「使い所がはっきりしている」が明確でない人は、レンズを選択できない人でもある。以下、大雑把に各タイプの傾向などを書くが、あくまでも私から見た傾向で他の人の用途までわからない点に留意してもらいたい。そして新しい皮袋には新しい酒を盛れが真理であって、描写の好みは除き高性能化するデジタルカメラには真面目につくられた新しいレンズがもっとも適切な組み合わせだ。敢えてカタログ落ちしていたり旧式のレンズを使うのは、それなりに考えあってもものなので、自分にとっての使い所含めいたずらに買うべきものではないと思う。

[Ai-S以降を勧める理由]
おおよそ実用できるレンズはAi-S、Dであり、現行品はG、Eなら間違いがない。

いまだにAi-S、Dがカタログに残っているのは過去のボディーを使用するユーザーのためであると考えるべきだ。厳密には絞りリングがないと操作できない撮影分野があるなど、カメラの現行機種でもG、Eタイプを使えないケースもある。しかしはっきりしているのは趣味性のためだけにニコンがレンズの選択肢を多くしているのではないということだ。

私は各種Ai-Sレンズ(広角から中望遠まで)を使用したことがあるし、現在も一部を所有している。D800EからD810ではあばたもえくぼで使えたAi-Sレンズが、D850ではちょっと耐えられない描写になっている。D800Eの段階ではフィルムを想定して設計されたAi-Sレンズはフィルムでは真の実力が発揮しきれず高画素デジタルになってはじめて明らかになる性能があると感じた。パーフェクトな写りではないが、解像性能や階調性能に驚きがあった。同じレンズがD850では落胆に変わった。

Ai-S 28mm F2と同105mm F1.8はD800EからD810で、おっとりした優しい写りながらそれなりに解像する印象だった。ところがD850ではフリンジが盛大に出て、それでも使用できる絞り値はF8以上になり、そうして使ってもかつてのような絵のよさを感じにくくなった。現在も新品で販売されているAi-S 50mm F1.2も同様だが、さらに絞り開放付近でD850ではフォーカスが合った部分の周囲に油膜のような変なにじみが出て、これにはげっそりした。

参考までにD800E=有効画素数3630万画素、D810=有効画素数3635万画素、D850=有効画素数4575万画素だ。

Dタイプのマイクロ 105mm F2.8については複数回実写を伴う記事を書いたが、D850では開放付近で大いに甘いのに対して、D800EからD810ではそれほどでもなくいわゆる「絞って締まりが出る」タイプのレンズだった。

私は「レンズの味」より意図通り正確に写るレンズを好むので、いまどき見当たらない面白い写りのレンズを求めている人には参考にならない意見かもしれないが、この手のレンズは機械的な連動によって使えるか使えないかだけでなく使用するカメラの画素数(レゾリューション)によって写りがまったく変わる点だけは憶えておいて損はないだろう。まちがってもGタイプより安く手に入るから過去のレンズを買おうと考えてはならない。

カメラの画素数と解像能力の違いで驚くほど性格が豹変する。したがって誰かが「よいレンズ」であると画像つきで言っていても、自分のカメラで同じ結果が得られるとは限らないのだ。これはFマウントのカメラのユーザーに限った話しではない。Zマウントで活用できないかと考える人、他社の一眼レフやミラーレスカメラにアダプター経由で装着しようと考えている人もまったく同じだ。

ではAi-S、Dの傾向について記す。

Ai-Sは(廉価版Eシリーズを除き)すべてスーパーインテグレーテッドコーティングだが、Gタイプ発売前後(たぶん発売後)に製造されたものは後玉のコーティングが変更された。デジタルカメラのセンサーは反射の特性がフィルムと違い、レンズから入った光がセンサーと後玉の間で反射しあう問題がある。このため写真が本格的にデジタル化されたあとの製品は、後玉がやたらと光を反射させないようコーティングで調整してある。Ai-Sがデジタルカメラで使用される前提でコーティングが改められたのだ。他のレンズのコーティングは発売当初のままと思われる。

スーパーインテグレーテッドコーティングはGタイプでも使用されている。スーパーインテグレーテッドコーティングとは、ニコン流にコーティングの最適化をはかったニコン基準のコーティングを意味するもので、素材は何か、何層重ねるかなどの決め事ではない。ナノクリスタルコーティングはナノレベルの粒子をコーティングしていて、カタログではスーパーインテグレーテッドコーティングと並列して書き表されているが意味はまったく違う。

つまりAi-Sにはデジタルカメラに最適化されたコーティングのレンズと、フィルム基準のレンズがある。同じ名称のレンズであっても製造時期によって二者に分かれる。フィルム基準のほうがデジタルカメラで面白い画像が得られると考えるのは早とちりで、センサーとフィルムの反射特性がまったく違うため(おもしろいかもしれないが)レンズの素性をちゃんと理解できない可能性が高い。これは前述の画素数(レゾリューション)の話に通じるものだ。

いずれのスーパーインテグレーテッドコーティングであっても、Ai-Sのコーティングはなかなか優秀でハロやゴーストはめったに出ない。また全般的に色乗りがよい。この点は安心してよいだろう。しかしAi-Sの発売期間は長いので、この間にちゃくちゃくとコーティング技術は進歩しているので後発のレンズのほうが、よりよいと考えてよいだろう。

Ai-Sは金属鏡胴、ゴム巻きのフォーカスリングと考えてよい。安価な価格帯のものでも、現在主流のエンプラ鏡胴よりしっかりした感じを受ける。オートフォーカスレンズと違い、ヘリコイドにはグリスが盛られているのでねっとりした回し心地だ。力を込めないと回らない、回し心地にムラがあるといったものはグリースが劣化している。指を添えてすらっと回らないのは程度が悪いことなる。現在でも清掃整備をニコンは受け付けているし、信頼がおける会社が同様のサービスを展開しているので具合が悪いなら整備すべきだろう。なお現在カタログに載っているAi-Sについては部品交換を伴う修理が可能だが、カタログ落ちして一定期間がすぎたものは部品が欠品しているので修理を受け付けてもらえない。修理可能かパーツの備蓄状況は刻々と変わるので、どのレンズまで該当するかは問い合わせるほかないだろう。

Ai-Sの中望遠以上ではスライド式の組み込みフードが実装されているレンズがあり、組み込まれていないレンズはバネで止める形式のフードだ。純正フードはいまだにかなりの種類が販売されていて、どのレンズにどの型番が適合するかニコンのサイトに表示されている。ただし販売を終えるフードも出てきているので注意したい。

スライド式のフードは一見便利そうだが、気がつくと引っ込んでいたり、そもそも長さが圧倒的に足りない。バネ式の純正フードも長さが足りない。純正フードにこだわるなら、フィルター径が同じでより長い焦点距離のものが使える。純正にこだわらないなら、いくらでも他社の製品がある。

Ai-Sの描写傾向は一言で語れるほど統一されてはいない。絞り値での変化もボケ味もだ。かつてニコンのレンズは硬い描写であると言われたが、デジタルカメラで使用して特に硬いとも柔らかいとも思えない。共通する傾向があるとしたら、現代のレンズより線が太い点だ。線が太いとは、こまやかに階調を描写できず、明るい塊、暗い塊が生じやすい傾向を言う。Ai-Sに限らず同時代の他社製レンズも現代のレンズより階調特性が圧倒的に劣っている。

Ai-Sの使いどころは、もしかすると線が太い点かもしれない。また周辺減光も現代のレンズと比べて大きめなので、繊細に見せる写真ではなく物体の塊感を迫力をもって見せる表現に向いているのではないだろうか。これらの傾向についてもレンズごと差があるので、こればかりは実物を使用してみるほかないだろう。

Ai-Sは超広角から超望遠まで揃っていたし、マイクロ(マクロ)のほか特殊な用途に用いるレンズまである。だから中古市場を丹念に探していけばいつか希望のレンズが見つかるだろうが、これまでにも触れてきたように現行品を新品で買うのがよいように思う。現在カタログに残っているものだけでも20mmからマイクロ 105mmまであり、一通りの撮影ができる。好事家的には珍しいレンズを試したいとしても、あんがいそういうレンズも写りは普通であり、程度がよいものが少ないうえに、特殊なレンズは特定部分がイカレテいたりするし、とうぜんどこも修理を請け負わない。コレクターでないなら、まずは一般的なもので試しみるべきだろう。

プロ仕様であっても珍品であっても現代に通用するか不明であり、廉価品であっても現代的な内容を持っているものがあるのがAi-Sである。

Dタイプについて。

[別記事に「Dタイプレンズへの考察と実験」と題して、これまでの検証に基づく試写画像含むまとめがある。詳しくはこちらを参照してもらいたい]

Dタイプは85mm F1.4Dを除くと中古市場で人気薄だ。85mm F1.4Dのブームもひと段落ついた状態にあり、全体的に価格がかなりこなれている。人気薄の理由はAi-Sほどクラシックな位置付けと写りではなく、オートフォーカスとしてはGタイプより劣るとされているからだ。DにはまだGにラインナップされていないレンズがトップバッター級としてカタログに載っているいっぽう、なにかと同等だが開放F値やズーム域がやや違うという理由で残されているものがある。この手のレンズではGが廉価版、Dがプロユースのように扱われるが、写りはGが現代的であるだけでなく解像も細かい。もっとはっきり書けば、カタログ落ちしたものとGを比べると多少開放F値が暗かったり価格帯が下でもGのほうがよく写る。デジタルカメラに最適化されているのだからとうぜんだ。こうなると、Dを選ぶ理由がなかなか難しいと言える。

DxOのレンズテストを参考しようとしても、Dはほとんどテストされていない。常用域のDはかなりテストされているが、個人的にはあまり参考にならない気がする。たとえばマイクロ 60mm F2.8のDとGのテストでは、Gのほうがかなり優れていると発表されている。しかし使ってみた感覚では、言うほどGが悪いとは感じないし、ではDが万能という気もしない。DxOでは案外Dの評価が高く、これはテストの仕様と評価法と関係しているのは間違いない。というように、DxOのレンズテストだけ見ても自分に必要なレンズはわからない。ちなみにDのマイクロ 60mm F2.8は2019年1月段階でカタログに載っていて、程度のよい中古は15,000円くらいで買えるだろう。

傾向としてAi-Sよりモダンだが、カメラのデジタル化以降の潮流とは違う写りで、Ai-Sの延長線上の存在として考えて間違いないように思う。前述のように線が太い傾向があり、現在のレンズが過去と様変わりしてかなり細かく描写し階調をきれいに再現しているのが実感される。(線の細さ太さとは何か、についてはこちらの記事にまとめてある

そして使用するカメラの画素数によって写りが一変し、高画素になると芳しい結果が得られない。AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dの検証記事に「追記」したが、D850ではF5.6から実用域にはいりF8で最高の品質になるが絞り開放ではフリンジの発生だけでなく一枚ベールをまとったような甘さがある。甘いというより、ソフトフォーカスレンズ的傾向だ。ところがD800E、D810で撮影すると絞り開放でも使えそうな具合に写る。以下の画像は、近距離から絞り開放で撮影している。フォーカスはU字型の左下に置いた。画像をクリックすると長辺6000pixel相当の画像が表示される。

ホコリまでちゃんと描写されているし、金属の表現も上々だ。この撮影のあとD810で撮影を行い、逆光、半逆光、順光、コントラストが強い状況、フラットな光の状況を試した結果、やはりD850と違いそうとう写りがよいのを確認した。

これは高画素のカメラほどDタイプのレンズ(Ai-Sも)では、撮影時の光線状態が写りに大きく影響するためだ。高画素になりハイレゾリューション化するほど回析や収差の影響を受けやすくなり、これらの影響が拡大される。パープルフリンジひとつとっても、低画素なら発生していないように見えるが高画素ではコントロールできないくらい発生する。Dタイプのレンズはフィルム撮影のために開発されたものなので、デジタルカメラで使用する際はこれまで隠れていたネガティブな要素が露呈するし、画素数が多いほど影響が大きくなると考えておいたほうがよいだろう。Dタイプの銘玉とされるものは、往々にしてデジタル化初期に選定されているので現代でも通用するか何とも言えない存在だ。

Dだけでシステムが完結するだけの数と種類のレンズがあるので、すべてが一定の性格を持っているとは断言できないのも事実だ。4500万画素を超える画素数でも絞り開放からキレるレンズがあるかもしれないし、解像だけでなく他のようそも美麗かもしれない。だが私が過去記事でテストしたのは解像性能を突き詰めたマイクロ(マクロレンズ)だ。Ai-Sを改良したD、新規に設計されたD、高価格帯のD、安価なDと様々なものがあり、クラシックな写りが期待されるAi-Sと違い、実用性への期待が大きいDは選択が難しいのはこうした事情とも関係している。

AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dはどんなカメラでも、どんな状況下でも万能なレンズとは言えないが、すくなくともD800EやD810くらいの解像感のカメラでは個性的で使えるレンズで、かなり実力がある。万能的でなくても優れたレンズがDに存在しているのは間違いないのではなかろうか。

とはいえ中古のタマ数そのものが少なく、使い倒されたものが多いのもDの特徴だろう。またAi-Sと現代のレンズはネット上に情報がたくさんあり画像もよりどりみどりだ。Dがカタログのメインだった時代はフィルムの時代で、ネットの普及とデジタルカメラの普及に程遠い時代であったのでネット上に情報がほとんど存在しない。これもまた不人気に拍車をかけている。これから人気が沸騰するとは思えず、ゆえに新情報が追加更新されることもないだろうし、私はコレクターでなく使えるレンズを買うだけなので次々Dを試して報告しないだろう。こうなると各自があたりを付けて買って試すほかないように思う。

Fumihiro Kato.  © 2019 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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