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昨日、短信としてCapture One 12の新機能について書いた。新機能として特筆すべき点は楕円グラデーション、輝度範囲で対象を分別するマスクで、これらのポイントを簡単に説明した。2018年12月1日にver.12.0.0がダウンロードしたばかりのソフトを試用して感じるままに書いた説明から一夜明けて本格に使い始めると更に気付くものがあり、あらためて機能について感想をまとめることにした。Capture One12 はアリかナシかという問いに対しては、アリだと答えたい。
まずマシンパワーをそれなりに消費しそうな機能の追加で動作が重くなったかどうかだ。これまでのグラデーションツールには、どこからグラデーションがはじまりどこで終わるか、グラデーションの中間点はどこか明確に示すものがなく、これらを変更する手段も提供されていなかった。Capture One 12は楕円グラデーションツールを実装するにあたってこれまでのグラデーションツールにも、現像中の画像にグラデーションマスクを示すと同時にどこからグラデーションがはじまり終わるか、グラデーションの中間点はどこか表示する機能を追加した。これはビットマップ情報(画像を構成しているドットの情報)で処理されるものでなくベクトル情報(位置座標)で制御されている。「どこからどこまで」を位置座標X、Yで「ここ」と処理しているのだ。これはAdobeのIllustratorで図形を描く際の仕組みと同じだ。ただしCapture One 12でグラデーションマスクを描く際にIllustratorを使うような作業はまったく必要なく、ユーザーはこれまで通りカーソルポインターをココからココまでと動かすだけだ。ver.11までもソフトの裏側で同じ要領で座標位置を用いていたと思うが、ver.12では一回決めたグラデーションの「ここからここまで」の情報を維持し続けて、Illustratorで一回決めた画像のかたちをあとから変更できるように何度も変更することができる。
つまりver.11までは一度グラデーションツールでマスクをつくったら、ベクトル情報は即廃棄されてビットマップ情報だけ維持していたと推察される。ビットマップ情報だけだから一回決めたグラデシーションの「ここからここまで」を変更できず、変更したいならもういっぺん新たに指定しなさなければならなかった。このようにベクトル情報として保持し続けるため、前回の記事にも書いたリファイン等の境界領域をボカすツールをグラデーションに使うにはビットマップ情報に変換しなければならず、このため「ラスタライズする」選択が新たに加わった。位置座標X、Yではリファイン等の機能で定義されるものは記録できないし(段階的なボカシだけなら記録できるが、ブラシのオートマスク同等のものは不可能で)、画像に反映させられないからだ。「ラスタライズする」とこれまでのグラデーションの扱いと同じになるので、「どこからどこまで」を変更できなくなる。
このようにグラデーションツールのプログラムは完全に別物になり新たに書き直されたのだろう。ベクトル情報はビットマップ情報より軽量で、しかもコンピュータが得意とする計算処理なのでこのことだけで動作が重くなることはない。だが、これは私の環境だけかもしれないがグラデーションの指定の動作がほんのすこしぎこちなく感じられる。とはいえ3.2GHz Intel Core i5、メモリ32GBのMacで動作が重すぎるというほどではない。むしろブラシツールの動作ではCapture One 12のほうが軽快だ。「輝度範囲」でマスクする領域を指定する動作は新たなものなので比較の対象がないがとくに動作が重いとは感じない。
前回触れなかった新たな機能として、モノクローツール「ブラック & ホワイト」に「スプリットトーン」のスライダーが同一UI内の別タブとして提供された。これまでのフィルターに赤、黄、緑、シアン、青、マゼンタの色フィルターは「感色性」タブだ。フィルムの時代からある色フィルターの考えそのままに表現してきたのが従来のUIだった。これをデジタルで画像処理する際に使われている「スプリットトーン」が加わったのだ。
さて、今回の目玉であるグラデーション指定のベクトル化で作業がどう変わるかだ。
適当に「だいたいここからここまで」とグラデションの領域を指定する場合は特に変わるものはない。ただし「なんとなく違うな」と感じたとき領域だけでなく角度も変更できる点は便利だろう。もっとも便利になるのは、どこからどこまでだけでなくグラデーションの幅をかなり厳密に調整したい場合だ。ブラシツールではなくグラデーションツールでマスクするのは、段階的な変化を機械的に描きたいときだ。ブラシツールのぼかし部分を利用して効果を段階的にすると、どうしても塗りムラが生じて意図がみえみえになる。グラデーションツールは機械的に変化するさまを描くが、だからといって不自然な訳ではなく、均一に変化することでむしろ結果は自然に見える。しかし変化する領域の幅の取り方によってグラデシーションの見え方は激変するので、より自然さを求めるには変化する幅を調整しなければならない。前述のように以前のバージョンでは変化の幅が気に入らない場合は、再びグラデーションを設定しなけばならず、一からやり直さなければならないので段階的に調整するのは不可能だった。ベクトル情報で「どこからどこまで」が保持されるようになり、もしグラデーションの状態が気に入らないなら随時変更を加えリアルタイムに変化する様子を見ながら最適解を決定できるようになった。これはかなり便利だし現像の精度が向上する。
Capture One 12に至る直前、MacOS Mojaveへの正式対応が遅れに遅れ公式にはver.11は未対応のままだったので開発者は各所から批判を浴びた。いっけんあたりまえの進化だがここまで内部を大改造していたのだし、その結果がこれまでの不足や不満を解消する内容なのだからver.11で対応できなかったのはしかたなかったと納得するほかない。
Capture Oneは現像の自由度がとても広いソフトで、Adobe Photoshopが単に写真修正の域を超えあらゆるニーズに応えられるよう機能を充実させているのと似ている。このように多機能でパワフルな変更が可能なソフトは、ある人にとっては一生使わない機能がてんこ盛りになるものだ。私はCapture Oneの機能をかなり使用しているが、なかには色温度と露光量まわりだけの変更で現像を終える人もいるだろう。なので今回の新機能がまったく恩恵のないもので終わる人がいても不思議ではないが、Capture Oneがツールの使い方をデジタルらしく充実する方向に舵を切ったのは把握しておいて損はない。これまでもCapture Oneはデジタルフォトだから可能な調整機能を盛り込んで、暗室作業では不可能だった「現像」を実現してきた。たとえばレイヤーごと色温度と色かぶりを調整できたり、同じく応答特性だけでなくトーンの幅や中間点を変更できる機能は、どうがんばっても暗室作業では不可能だ。しかし、マスクを切る作業の手作業感は暗室で覆い焼き等のマスクをつくったり使ったりするのに似た感触だった。ほんとうのところはわからないが、Capture Oneの設計思想の根幹に人間が表現の主役で表現は直感的に行うものとしていたように感じられる。またCapture Oneの敷居を高くしていた点として、写真が撮れるなら絵も描けるだろと言わないまでも絵心がある人が使って当然とするところがあった。多機能でなんでも変更できるのは逆に自分で決めなくてはならないのを意味し、マスクを切るための目論見から実際に描く作業までまさに「ブラシ」を使う技能が求められていたのだ。
これまで同様に写真芸術、写真表現のため実にヨーロッパ的な現像ソフトであるのは変わらないが、職人的に使えるいかにもデジタル的なツールを拡充させたのだ。ビットマップで成り行きまかせに近かったグラデーションツールをベクター化して、緻密に調整領域を詰められるようになった。ベクターツールが実装されたことで、もしかすると次のバージョン以降に多角形指定ツールが実装されるかもしれない。物体の輪郭を意識しつつブラシで塗りつぶすビットマップな職人的作業から、Illustratorで図形を描くように領域を指定して形状を緻密に調整できる時代がくるかもしれないのだ。今回のグラデーションツールの変更は多角形こそ扱えないが、ベクトル情報で位置を扱い職人的に形状を詰めるツールへの変更だった。
Capture Oneのレンダリング結果(トーン、色調など)が好みで使い続けてきた人もいるだろうし、私もこれらを支持しているが、このソフトの本質は表現意図をレンズやカメラまかせにせずどこまでも現像者が責任を持てるところにある。前回の記事にも書いたが、DxO PLはレンズやカメラまかせにしないためこれらのネガティブ要素をプロフィルを使って消し去る現像ソフトだ。Capture Oneはこれらを現像者の感覚でどこまでも恣意的に調整、変更するためにある。したがってカメラからの撮って出しを見てカメラの優劣やらの評価に忙しい人にはCapture Oneはまったく向いていない。意図を反映されるため緻密に調整、変更する人のための現像ソフトであり、こうした作業を嫌ったり、意図が曖昧な人にももちろん向いていない。もしCapture Oneに興味をもって新たに導入したいと思う人はとりあえず試用版をダウンロードすべきだろうが、カメラメーカーがバンドルしている現像ソフトとも他の現像ソフトとも別物である点を理解したうえでチャレンジしたほうがよいだろう。
Fumihiro Kato. © 2018 –
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