6×6等正方形画面から考えるアスペクト比と画角感

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たぶん多くの人が6×6判のフィルム機で写真を撮影したことがないと思う。これは仕方がないのであって、デジタル化される前から6×6判は機種が限られていたし、デジタル化されてからはトリミングをして切り出した正方形画像しかないのだ。カメラ側に機能があって切り出す正方形画像と、元から6×6の1:1のアスペクト比でしか撮影できないカメラの違いは、使う人のレンズ交換をする際の感覚だろうと私は感じる。画角とパースペクティブへの考え方の違いから、同じ意図、同じ状況でも異なる焦点距離のレンズが必要になる。デジタルカメラの切り出し機能だけ使っている人の多くが、ライカ判(や使用しているデジタルカメラ)の発想のままレンズを選択して撮影しているのではないだろうか。

これは、長辺側を切って1:1のフォーマットにしているため面積が小さくなり自ずと焦点距離が短いレンズで同等の画角を得る話でもあるが、1:1独特の広さ・狭さの感じがあるので意識せざるを得ないところに難しさがある。私たち人間の視界は、水平側に広く垂直側に狭い。この人間の視覚特性によって、ライカ判の2:3の他に3:4、4:5等々の写真ファーマットと正方形である1:1のフォーマットは別物なのだ。

上の図では、ライカ判2:3と1:1の違い、2:3とパノラマ状のトリミングを例示した。

人間の視野は横に広く、縦に狭い。このため人間は水平方向の広がりに敏感で、横位置、縦位置どちらも水平の広がりが気になる。視野が横に広いので横位置の対角線方向、四隅に対して視線が自然に導かれる。横位置では水平方向が長辺で、画像の中心から長辺方向に意識が移動した先に四隅があるため写真に広さを感じる。または長辺方向の隅まで一望できなくても、そちら側に広がりがあることを感じる。特に何も意識せず、広がり感を得られるのだ。

縦位置=縦長の写真は水平方向が短辺で、人間は視野が垂直側に狭いので写真のある一点を見てから長辺方向に視線を送って見ているケースが多く、こうやって全体像を把握しようとする。横位置=横長の写真は一瞬視線を送っただけで全体がわかった気がするのだが、縦位置=縦長の写真は上下に視線を動かす動作がないと全体像がわかった気にならない。縦位置の写真を見る視線は、水平方向に広く垂直方向に狭い視野が一段、一段と順にスキャンするようなイメージで移動しがちである。このためか縦位置写真では、画像そのもののサイズ感のうち垂直と対角方向にある広さを感じにくい。もちろん例外は多いが、人は表現されたものの横のスケール感に敏感なのだ。

こうした縦横の特性の違いから、風景のような自然界を表現する場合は(被写体のかたちが縦長でなかったり、特に意図するものがなければ)自ずと横位置で撮影するし、鑑賞者の視線と意識を一点に集めたい場合は狭さを感じる縦位置を選択する場合が多い。ポートレイトを縦位置で撮影したくなるのは、人間が二足歩行で直立しているのが普通の状態だからで、また狭さを感じる縦位置構図が見るものの意識を人物に集中させるからだ。

横位置の比率をさらに水平方向に長くして、相対的に垂直方向が短くなっても違和感はない。これは人間の視野が水平方向に広いからであるし、広い範囲を見回すときは首を水平方向に回して視界を広げるからだ。したがってパノラマを360°まで拡張しても大きな違和感がない。ところが、縦位置写真の縦を長くすると途端に違和感が生じる。なぜなら縦方向の広がりは人間の視野と相反するもので、さらに人間のものの見方は水平方向に移動するのが普通であり、顔を上げたり下げたりする行動はやや特殊だからだ。目玉を左右に動かすのは苦もないし可動範囲も大きいが、上下にはほとんど動かない。一日の生活で空を見上げたり、足元を見る割合も思い出してもらいたい。多くの人が空は天気の加減を知りたいときだけ、足元を見るのは何かが落ちたときくらいだろう。

ではアスペクト比1:1の写真ではどうだろうか。

アスペクト比1:1の写真は見たとき水平側の広さ感がまず気になる。これは長方形のフォーマットの場合と同じだ。長方形のフォーマットとの違いは、対角方向(中心から四隅に向かうベクトルと四隅そのもの)が強く意識される点だ。1:1のアスペクト比を持つ写真は、いちいち視点を移動させなくても隅々まで一望でき、左右の辺と上下の辺が近い感じを受ける(つまり空間は狭く感じられる)。まるで正方形の小窓を通して被写体を見るような感覚だ。横長フォーマットの縦位置同様に、被写体の核心部に注目が高まるフォーマットだ。いっぽうで四隅の角への広がりを感じやすい。対角線に沿って力が四隅側へ広がるような感覚と、画面の外から引力で四隅が引かれるような感覚がある。このためさらに四隅方向の広さや、四隅に向かう力が気になりやすい。これは、中央にある主題から発散する力が四隅に、隅々まで広がるような感じにつながり、ますますポートレイトに向いていると言える。また中央に主題さえおけば、なんとでもなるアスペクト比と言えるだろう。遠近感の消失点が正方形の重心に位置しているなら、重みがなおさら安定した構図になる。

1:1に注目して、さらに考えてみたい。

小窓のように上下左右から視野を規定される6×6判の感覚と、四隅方向の広さ、四隅に向かう力が、広角レンズの表現を他のフォーマットとかなり違うものにしている。レンズの画角は通常対角方向の角度で表すが、6×6判では対角方向の画角が他のフォーマットと一致していても水平方向は画角がかなり狭い。水平・垂直方向で得られる画角が狭いから同等の感覚にならないのは当然だし、四隅側周辺がぽっかり広くてもあまり使い道がない。四隅周辺で、広角特有のパースペクティブと広がりが強調された感じになる。四隅が引かれるような感覚は、まさこのパースペクティブと広がりであり、狭さを感じる水平・垂直方向とのギャップが生じる。これは6×6判で撮影した写真だけでなく、トリミングで1:1に整えた写真にも言える。(いろいろな点で違いは大きいが、円周魚眼を思い出してもらいたい)

水平方向と垂直方向の比率に差がまったくない1:1のフォーマットでは、広角レンズを使いたい状況で水平方向にもっと広い画角が欲しくなる。そして、より広い画角のレンズで撮影すれば、四隅側のパースペクティブ感と広さがますます大きくなる。標準レンズ以上の長い焦点距離では鑑賞者の視線を集中させる効果があった1:1のアスペクト比だが、広角とくに画角が広い短い焦点距離ではこうした問題を感じやすい。もちろん被写体、ワーキングディスタンス、周囲の様相次第では気にならない場合があるし、逆に特殊な感じを構図に生かす考え方もある。正方形の四隅に向かう力は、人間が日常的に経験するものではないのでアスペクト1:1の広角表現は特殊な感じになるが、私は6×6判と広角レンズの組み合わせが嫌いではない。

もう一度、前掲の図に戻る。

一方向に著しく広い画像の特徴をはっきりさておこう。
1. 代表的な9:16のアスペクト比から、さらに水平方向の割合を高めても違和感を生じにくい。
2. 垂直方向に著しく広いトリミング=極端な縦型のフォーマットは違和感が強すぎて落ち着いて鑑賞できない。
どちらも、人間の視野が水平に広いからだ。

ここで「写ルンです パノラミックHi」の話をしようと思う。「写ルンです パノラミックHi」とは、写ルンですが全盛を極めていた1980年代に発売された、かなり横長の画像を得られるフィルム付きカメラだった。このカメラは他の写ルンですと同じ構造で、ライカ判フィルムを使って撮影をしていた。ライカ判は24×36mmのフォーマットだが、「写ルンです パノラミックHi」では短辺側をマスクすることで横長の画像を得ていた。DTPの店に現像に出すと、リボン上に長い紙焼きが出力された。

「写ルンです パノラミックHi」は超広角レンズを使っていたのではなく、やや広めの画角のレンズだったが確実にパノラマ感があった。水平に広い範囲を写したもののように見えたのだ。現代の感覚では上下をトリミングしたアスペクト比の変更にすぎないのに、かなりのパノラマ感があったのだ。デジタルカメラで撮影した画像をPC上でトリミングすることで同じ処理になるが、これもまたやはり(パノラマの定義にもよるが)擬似パノラマになる。ある程度長めの焦点距離のレンズで撮影したものも明らかに広がり感が出るし、超広角レンズで撮影した画像なら正真正銘のパノラマと言えそうな雰囲気になる。つまりパースペクティブの描写が圧縮ぎみであっても誇張されていても広がりが強調される。話を一つ戻すなら、1:1の6×6判で広さ感が乏しいと感じられるのと逆の効果だ。(広さ感であって、実際に広い範囲を撮影できる画角かどうかは関係ない)

ただし、この広さ感は広角レンズで感じる空間の広がりとはあきらかに違うものだ。なぜ広角レンズの広がり感と印象が違うのかといえば、もちろん画角の違いがあるからだが、パースの描写の違いによるところが大きい。横長=著しく水平が広い写真について、上図では便宜的に上下方向に向いた矢印で垂直方向のベクトルを表したが、上下を切り詰めることで画像の上と下から圧力を強く感じる印象のものになる。

9:16ほどでなくても、2:3、3:4、4:5といったアスペクト比の違いで、それぞれの縦横の比率に応じて横位置における広さ感はかなり異なる。と同時に、縦位置にしたときの違和感の程度の違いにもなる。対比が大きいアスペクト比2:3では、他のアスペクト比のフォーマットより横位置で観るものに広がりを想像させ、縦位置にすると2:3は上側と下側の空間の処理が難しくなる。アスペクト比2:3のライカ判は縦位置ではかなり垂直側が広く感じられるのだ。3:4のアスペクト比の縦構図では気にならなかった天地方向の余白あるいは隙に、2:3では頭を痛める場合が多々ある。このためライカ判など2:3のアスペクト比を持つカメラで超広角を使った縦構図は難易度が高い。難易度は余白や隙の問題だけでなく、繰り返し書いてきた人間の視覚の生理を裏切る縦長の視界が強調されるからでもある。縦へ縦へと視界を誘導する力が、より強く働くのだ。

Fumihiro Kato.  © 2018 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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