写真の仕上げで何を、どうやっているか(ある会話の続き)

おいちゃん:続きということで、また来ましたと挨拶しておくぞ(笑)
おいら:挨拶はだいじだよ(笑) 正直に言えば、続けて話してる。
おいちゃん:「空と雲の表現」のやり方は説明してきたし、おしゃべりでは説明しにくいという話だったけど、そこんとこをもう少し聞きたいと思ってる。
おいら:逆にわからないところを質問してもらったほうが説明しやすいかもな。

おいちゃん:あれは地平線から上と下で区切っていじってるの?
おいら:最終的にはそうだけど、そう簡単な話ではないな。やってる側としては、さほど複雑なことではないんだけど。
おいちゃん:たとえば、この写真は空にヤシっぽいというかサボテンっぽい木が大きくかかってるじゃん? 上と下を区切ってるなら、この木は区切ったところで調子が変わってしまうよね?

おいら:こういうとき、まずどうしようかと考えるわけ。考える段階で空はこうしよう、地面側はこうしようって目論見があるのはとうぜんで。できる限り両方にかかってる木は不自然にしたくないし、この写真の場合は主たる被写体として重要でもあるよね。ここまでで何か質問して(笑)
おいちゃん:木だけマスクを切るのか?
おいら:ずっと前はそうしてて、この場合なら空、木、地面ときれいに3分割してたわけ。でもPhotoshopとちがって現像ソフトは画像の拡大率が低いし、ブラシのサイズを1ポイントからみたく小さくできないからどうしても綺麗に分離できない。で、それだけでなくて分割した部分ごとの差が大きくなりすぎて美しくないんだな。
おいちゃん:現像はCapture Oneだっけ?
おいら:そうだね。おいちゃんはLightroomだよね、あれはこういう処理にまったく向いてないよ。

おいちゃん:でもブラシの処理で分割しないならLightroomでも関係ないんじゃない?
おいら:じゃあ手順で説明するよ。全体のトーンは階調が十分に出つつ、暗部が汚い黒い塊にならないように、トーンカーブは逆S字でコントラストは最弱近くする。でも、どっちの要素も元データの状態次第で塩梅は変えてるよ。ここで考えるのは、できる限りマスク指定する箇所を少なくできないかで、マスクをかけないところがそのまま使えないかと思案する。でも、この場合は無理だった。
おいちゃん:ということは基本の画像をまずつくって、これをベースにして空と木と地面側を調整したわけか。
おいら:化粧の下地をまずつくったということだよ。逆S字でコントラストを弱めた下地の上に、マスク指定して逆の個性を与える変更を加えると、効果が差し引きされるのはけっこう大事なんだよ。で、問題は木だ。おいらはどうやったらどうなるか経験からわかってるから、単純に空と地面で2分割してそれぞれ調整しちゃったわけ。ただし、空は地面よりコントラストが低くくて、応答特性も違うようにしてるから木の葉っぱ部分はシャープさが圧倒的に足りない。
おいちゃん:そうなるわな。

おいら:そこで、木の葉っぱが緑色なのを利用する手はないとなるのね。植物の緑は、黄色成分と緑色成分でできていて、どちらが支配的かというと実は黄色。説明の最初にモノクロ化のためのフィルター効果について言わなかったけど、化粧下地のトーンが決まったときモノクロ化してる。でもって、木の葉っぱ問題に対応するためもう一度フィルター効果に戻って、黄色と緑の濃度を葉っぱの表現主体で調整しなおした。
おいちゃん:それやると、全体の感じが変わるでしょ。
おいら:変わる。あんまり劇的にいじると明暗差がある部分に白っぽい縁取りが出たりして弊害しかないから大胆かつ微妙に変更しなくちゃならない。これは空がシアンと青の要素で成り立っていて、黄色や赤と補色に近い関係にあることから生じる。同時に、空にかかってる葉っぱについて黄色に注目して変更しても、空そのもののトーンは影響受けないとも言える。これで葉っぱを必要な濃度にしながら、空のトーンとコントラストをもう一度修正した。あと葉っぱのコントラストは、明瞭度の変更で見かけ上の対比をつけてコントロールできるし、Capture Oneの「構成」を使用してシャープな分離感も出せる。ただ注意したいのが「構成」の使い方で、へたをやるとシャープネス以上に白い縁取りが出る場合があるからさじ加減が大切で、シャープネスのほうで強度と半径とか試しながら分離感を出すときもあるよ。これだけで、木の違和感や表現の足りなさは圧倒的に解消できる。
おいちゃん:ああだからLightroomは向いてないと言ったのか。
おいら:いや、言いたかったのはこの部分でのツールの違いではないんだけどね。

おいら:このとき、地面はトーンカーブをS字にして、さらにCapture Oneに実装されている「レベル」調整で明るさ側の最大値を詰めて、中間値を明るい側に寄せて画像は暗っぽくしてる。さらにコントラストを強くして明るさ調整も明るくして、ハイライトを立てたまぶしさを出した。この効果は砂を白く、明るくする効果なんだよね。ということは、木の下側もこの影響を受けているので更に葉っぱと調子が違うことになる。でも、さっきの処理で調子違いの境目は気にならない。大雑把に言うと、これだけ。もう少し詳しく言うと、ブラシをかなり大きくして葉っぱ部分をまるっとマスク指定して明瞭度と構成をかけてる。これがさっき言った、葉っぱの分離感を出すやりかた。きれいに塗らないで、真ん中あたりだけね。
おいちゃん:それだけ?
おいら:だいたいこんなもん。このブラシで空まで影響受けないように、なるべく外側に漏れないようにしてるだけ。葉っぱひとつひとつ綺麗にマスク指定する方法もあるけど、どっちが自然に見えるかで決めてる。

おいちゃん:いくらなんでも、それだけじゃないでしょう?
おいら:実はCapture Oneはマスクを指定したレイヤー単位で色彩の変更ができるのね。色温度とかカラーバランスを個別に調整できる。色についての調整では、「カラーバランス」という項目があって全体を変更するマスター、シャドウ、中間調、ハイライトで色を各方向、さらに彩度と明度を変更できるようになってる。マスター以外をモノクロで使うと色がそのまま乗ってしまうのでこの場合は使えないけど、マスターでは元のカラーデータを化粧下地の下で変更できるから、モノクロフィルター効果と合わせて色に伴う階調の濃度や調子が変えられる。色温度も部分ごと変えられるから相乗効果が得られる。なのでこういう微妙な操作はCapture One向きで、Lightroomではこうはいかない。

おいちゃん:けっこう複雑じゃん。
おいら:いや、慣れるとそんなに時間はかからないよ。むしろ、こうやって第一稿の画像を出力して検討する時間と、検討結果を反映して微調整をするほうがトータルで時間がかかる。でもこれは誰もがやってることだろうし。わざとデジタルっぽい絵を出力してるけど、デジタル臭さというかアクを感じるときとか、マスクしてないのにマスクっぽい調子とかはPhotoshopに持っていて1ピクセル単位で修正したりとかの手作業のほうが時間と神経を使うんだよね。
おいちゃん:神経質だな。
おいら:売り物なんだし、下手して100年後にひょんなことで再発見されたとき下手くそと言われるのが癪だしな。

おいちゃん:Capture Oneのそういう使い方というのは教本とか紹介してるサイトとかあるの?
おいら:あるかもしれないけど、もっと普通の使い方だろうし、こんなアブノーマルなのはないんじゃないか。とにかく機能を使い倒してみるのと、表示されるタブとか全部見るわけ。でも、色と濃度の関係則とか、シャープネスの原理とか、あと「構成」みたいにブラックボックス化した機能の理屈を解明するとか、わかってないとダメだとは思うわ。あと下手なものつくったら死ぬ的な緊張感だな。

おいちゃん:ここのところの海ものの作品はもんわりしたダークなトーンで、この前は世界感でって言ってたけど、これも世界観で説明できるところなの?


おいら:そうだね。気をつけてるのは、ダークなんだけどハイライトに近いところで明らかな抑揚をつくるのと、黒い塊的な汚れ感を出さないこと。あのもんわり感はダークなのではなくて、中間調が大きく占めてることで実現されていて、最小の明度の分量はあんがい少ないんだよ。
おいちゃん:「砂景」と言い始めてからかな、そういうのやってるのは?
おいら:以前から砂は意識してたからなあ。思うに、適正露光なんてものはないぞと言う前あたりからだ。明け方や曇りや雨の日に撮影しても、カメラの露出計通りや多少プラス・マイナスしたところで明るい絵になるよね。ぜんぜん明け方じゃない、という(笑) これは単体露出計の出目通りでも同じだね。

おいちゃん:実際には、もっと明るいんでしょ現場は?
おいら:明るい場合もあるし、あんな感じの場合もあるよ。そんなことより大切なものがあるわけ。


おいちゃん:なによ、大切なものって?
おいら:情緒だな。おいらが見たいものを撮影してるってこと。正確に言うなら、見たいものをつくるために仕上げまでやって、ああなるという。

おいちゃん:露出を決めるのと仕上げと、どっちの比率が高いの?
おいら:仕上げを含めて撮影するときいろんなことを決定してるからなあ。
おいちゃん:現像するときはいつもおんなじやり方してる?
おいら:さっき砂はS字にすると言ったけど、そうとも限らない。弱いS字形や、S字のハイライト側をもう一山つくって、いや谷にして下げるとか。天候によっては逆S字とかも。こうしたうえで「レベル」調整で階調全体を明るくシフトさせつつ、中間調からシャドー側をべらぼうに増やして、明るさ調整を上げるとかだな。複雑そうに思うかもしれないけど、自分の中ではやっていることの筋道が立っているし、客観的に見ても変なことはしてないよ。
おいちゃん:へえ、そうなの?
おいら:たとえば前回出た雲の話だけど、トーン曲線の描きかたひとつで、雲を浮き上がらせるとか、雲の明暗を造形するとかできるわけ。さぐってると雲を縁取る輪郭が現れるポイントもあったり、ソラリゼーションではないけどああいう中間調が一色になる感じもあって、そんなのは避けるけどさ。ここに「レベル」調整を加えたら、ほとんどすべてができる。だから、もんわりしている成り行きでああいう雲になってるのではなくて、もんわりしてるのも雲がああいう表現なのも自分で決めてるんだよね。快晴で雲が白く輝いたり、空が明るく抜けていないなら、濃淡は中間調の幅いっぱいに収まってるんだよ。それならトーンカーブの中間調を平らにすれば、ゆっくり明暗が推移する立体感のある雲表現になるのはとうぜんでしょ。

おいら:たとえばサボテンというかリュウゼツランみたいな木より、こっちの写真のほうがもんわりした空気と空と、上下を貫いてる電柱が顕著だと思うわけ。木は生き物だからまだごまかしが効くけど金属のパイプはごまかせない。誰もが一様なものだって知ってるからさあ。


おいちゃん:電柱に調整の切れ目、境目が出てないね。
おいら:手前の電柱の上下が黒いのは元からこれだし、境目を出してしまったら修正はパイブが細いから面倒で、さらに奥のもっと細く見える電柱までやらないといけない。マスクをそれぞれつくって別個の値を与えるとなると、修正するのと同じ労力がかかるしきれいに仕上がるとも限らない。だから全体で化粧下地をつくって、最小限のマスクで済ましてる。ただし、砂の表現と雲の表現は同じ調子では実現できない。まあ、そういうこと。トーンカーブの使い方……つまりパイプの明度と空や地面の明度それぞれを意識して、カーブのポイントを使えばいい。

おいちゃん:さっきのサボテンと同じなのか?
おいら:似たようなものだけど、撮影地点と時刻と天候が違うから撮影の段階で露光値の与え方から変えているんだよね。前は仕上げを想定したうえで露光値を与えてたんだけど、最近はどんな場合も最大限ディティールを残す方法に変えた。ディティールは雲もそうだし、電柱とか地面とかすべての調子。こうやっておくと、現像がはるかに単純化できる。いらないディティールは捨てられるけど、足りないディティールや存在しないディティールをつくることが写真では無理だからね。

おいちゃん:スポット露出計で明度を決定するようにしろって言ってたのと矛盾しないか?
おいら:なんだ、書いたもの読んでくれてるじゃない(笑) 濃度を撮影時に決定する方法を理解していないと、ディティールをできるだけ記録する撮影はできないと思ってるんだ。だから、明度決定の方法を説明したあとゾーンシステム的な考え方についても説明してるよ。それとおいら両方使ってるし。
おいちゃん:いや、それでは伝わらないだろ。はっきり何々しろと書かないと読んでるほうはわからない。今日の現像法の話もけっこう難しいし。
おいら:うーん、わからないのは実験したり考えたうえでいろいろ実践してないからだと思うぞ。それとはじめてRAW現像する人のためには喋る気も説明する気もなくて、そういうことはworkshopのコーナーに散々説明してあるわけ。それとアシストしてくれる方にやりたいことを命じるのと、よくわからん人にやりかたを懇切丁寧に原理から説明するのは違うのであって、どこの誰か知らない人に何々しろとか、何をやろうとしてるか知らない人にそれでないとダメとか言い切るのはファシズムじゃねえかと思うわけ。それと人間は手を動かしながら考えないとアホになる(云々かんぬん)
おいちゃん:めんどくせえ奴だ。まあいいや(笑)

おいちゃん:いつ頃から両方の方法……ディティールを残し切るようにしたの?
おいら:前からやってたけど去年の後半あたりから……はっきりやりはじめたのは今年の梅雨時に福島を取材したあたりからだな。


おいちゃん:それだったらカメラの分割測光でいいとはならないの?
おいら:カメラの分割測光が使えるのはかなり限定的な天候とか光線状態のときなんだわ。そうでないときも下手なことするより正しいけどね。分割測光とニコンの場合は他社もそうかもしれないけど色についても露光値への影響を演算していて優秀すぎる。でも、やっぱりブラックボックス化されててメーカーも仕様を公表してないでしょ。だから、濃度を決めるのとディティールの残す方法とを撮影時に直感的に見極めて参考にしてる。あと分割測光をまったく否定して使わないというわけでもないよ。

おいちゃん:撮影してるとき、どれくらい仕上がりの画像をイメージしてるんだ?
おいら:意識してるのは、そうだねえ……世界観で、世界観を反映させる手法だなあ。この話をすると前回にもどっちゃうけど、別の世界観でやるなら構図からして別物になるというか。あと、おいらの仕上がりはディスプレイで見たものというより、いつもの紙でいつもの方法でプリントした結果なんですよ。
おいちゃん:なら、次回は構図の話でもしよう。
おいら:予告とかしていいのか(笑) 義務が生じるぞ。

Fumihiro Kato.  © 2018 –

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Profile

F.Hiro.K
加藤(文)文宏 / Fumihiro Bun Kato a.k.a Hiro.K
写真家・作家 / Photographer Author
・北海道北見市生まれ。
・大学卒業時までに詩集「無題あるいはサラバ」、同「Cadenza」発表(共に絶版、在庫なし。「Cafebza」別装丁私家版のみあり)。
・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。
・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他)
・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。
・不二家CI、サントリークォータリー企画・取材、Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告、武田薬品工業広告、他。アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材、MIT Museum 収蔵品撮影 他。
月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。
・長編小説「厨師流浪」で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」他、小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。
・獅子文六研究。
・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。
・各メディアにおけるスチル撮影。
・オリジナルプリントの製作、販売。
・JSAHP正会員
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