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写真では最終的に二次元に落とし込んだとき違和感がないなら、撮影時の上下左右は関係ないところがユニークである。何の話をしているかというと、正立させるのが難しい被写体を逆さ吊りして撮影して、画像を天地逆にひっくり返してもなんら問題ないことを言っている。逆さ吊りに限らず、横に寝かして撮影したものを90度回転させる場合も同じだ。なんらかの理由で被写体を正立させられない場合だけでなく、ライティングが困難なときもライティングしやすくするため似たことができる。または演出上、内部の液体に動きを与えるためボトルを傾けるなどし、画像を回転させボトルが正立しているように見せる場合もある。やってはならないこと、なんて無い。しかし、写真では奥行き方向を手前側方向に逆転するのは無理だ。背景の難しさは、回転や上下の逆転のような手法が取れず、常に撮影者の位置と被写体の位置からの束縛を受けるところにある。
背景処理の方法として、ディフューザーの背面から照明して光の強さによって濃度を調整する方法がある。この場合は被写体の後ろにディフューザーを張るが、背後からの照明の影響を被写体から完全に除くにはディフューザーとの距離を大きく取るほかない。背景を背景紙、ボードなどにするなら、これらの前面から照明することになる。被写体に対する照明の光が成り行きで届いた結果をよしとするなら問題ないが、調整の自由度が低く工夫したいなら別途照明が必要だ。
撮影空間に余裕があるなら背景のライティングはほとんど問題にならないが、空間が狭かったり様々な機材を組み込みスペースに余裕がなくなると、背景を照明するのに苦労することがある。背景の照度が成り行きでよい場合もあれば、均一にしたい場合もある。均一な照度を与えたいのに、光源を設置する場所が限定され、背景に対して光源の位置に角度がついていると結構難儀する。
ライティングは物理法則を無視したり、法則をひっくり返して無理を実現できるものではない。光源と直交する平面は、平面のいずれの位置も光源からの距離が等しいため均一な照度で照らされる(実際には理論通りではないとしても)。一方、光源と平面が直行せず角度がついていると距離に応じて明暗が生じる。これを利用するなら、特別な仕掛けなしでグラデーションが描ける。しかし、目的が均一な明るさだったなら「難儀だなあ」なのだ。
背景に限らず、光源からの距離で明暗差が生じて、これをできる限り解消したい場合は、光源を遠ざけるとよいだろう。
光は距離に即して減衰する。図では光源と対象の中心まで距離をXとして、このままXの2倍の距離まで光源を後退させている。もっとも光源から遠い位置の、対象の中心からの距離はYだ。X : Yと2X : Yを比較すると、2X : Yのほうが比が大きいのがわかる。このまま光源をさらに遠ざければYはXに対して誤差の範囲までわずかなものになるだろう。距離をとれば光が減衰するため光量を上げなければならないが、光源と対象の距離を離せば離すほど光量のムラは減る。
このとき問題になるのは前述の通り光量の減少と、光の性質が曖昧になることだ。光の性質が曖昧になるとは、直射、拡散など意図のため施した手段の特性が失われる点を言い表している。これは主たる被写体では大問題であるが、背景の処理なら問題にならない場合が多い。光源と対象となる面の位置を正対できないとき、往々にして距離も取れないものだがわずか離すだけでもかなり照明のムラが解消されることがあるので試して損はない。これはクリップオン・ストロボのフレネルレンズに起因するムラにも有効だ。
これらから、光源は最終的に出力を絞るとしても機種そのものは出力が大きいほど照度ムラを消すのに有利だとわかる。もっとも贅沢な光源は太陽だが、比較するのもおこがましい程にストロボ光源の出力は小さい。それでもより大きな出力で、あるいは複数を一つの光源として発光させれば、照度を確保したまま適切な距離を置くことができる。なにごとも過ぎたるは及ばざるが如しであり、出力も、対象との距離も、現実的で選択可能な範囲でとしか言えないが、撮影をしている人なら感覚的に通じるだろうと思う。
Fumihiro Kato. © 2018 –
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