内容が古くなっている場合があります。
しばしば露出計なんてなくてもヒストグラムをカメラの背面液晶にでも表示させれば露光量が適切かどうかわかると豪語している人がいるけれど、随分と大きく出たものだなと感じる。ヒストグラムは暗から明の明るさの分布量を示すもので、町内に住んでいる0歳から100歳までの年齢別人口の分布を示すグラフと同じものと考えてよい。どこをどう見たら明るさの分布を示すグラフから適正露光か否かが判断できるのだろう。高輝度、低輝度の分布量が多い場合は白飛び、黒つぶれがちな画像であるケースを否定できないが、もしかして中間調にピークを示す状態なら適正露光であると件の人々は言いたいのか。 こういう意見の人たちにとって適正露光はそういうものかもしれないけれど、そもそも適正露光なんて机上の概念である。
まず適正露光とは何か整理しておく。適正露光とされる露光量は、人間が対象を目視したとき感じられる輝度を、濃度に置き換えてほぼそのまま記録するための値だ。これはだいぶいい加減な表現なので、もう少し正確に書き直してみる。世界を見回して暗がりからもっとも明るい部分までの総体を、4%から90%の反射率で構成されると仮定したとき平均的な反射率は18%と考えられる。この18%の反射率を持つ物体を18%の反射率として記録するため必要な露光量がここで言う適正露光量となる。したがってとても明るい場合は露光量を絞って暗めに、とても暗い場合は露光量を増して明るめに調整していることになる。ざっくばらんに言えば、闇夜に撮影するなら、適正露光を実現するため露光量をかなり増やすため昼間に撮影したような画像が記録される。適正露光で人間が見たままの状態を記録できるのは日中の明るい状態(とても明るい状態は除く)の限られた光量の場合に限られる。
写真撮影の目的でもっとも重要なのは、雰囲気描写ではなく物体のあるがままの姿を記録することで、世の中の大半の人は物体をあるがままに記録したいためシャッターを押している。こうした目的を実現するため、つまり明るすぎたり暗すぎて見えない写真にならないよう最大公約数的な撮影の成功のため適正露光値が存在している。そして最大公約数的な適正露光値を基準にしておけば、より明るく、より暗く描画させたい人にとっても便利な指針になる。適正露光量、適正露光値は単なる指針にすぎないのだ。
ヒストグラムに話を戻すと、デジタルカメラの背面液晶に表示されるヒストグラムは画角内の輝度の分布を示すもので、広い白バックを背景にした面積が狭い主たる被写体をテスト撮影したとき、輝度が高く面積が広い背景の影響を受け高輝度側に鋭いピークが描かれ主たる被写体については分布量が少ないため横軸ギリギリあたりを這いずるようになる。これは一例だが、このようなヒストグラムを見て露光値あるいは照度が適正か否か判断できない。また、ヒストグラムからは照度のムラが具体的にどの部分に生じているか判断がつかない。インスタントフィルムを何枚も何枚も使用するようにテスト撮影しては背面液晶や連結したPCのディスプレイで確認するくらいなら、単体露出計で測光したほうが圧倒的に正確であるし仕事が早いのである。
さらに、適正露光は指針にすぎないので(とにかく無難に記録するのでなければ)露光量を増減させるのが普通だ。こうなると、どの部分をどの濃度で記録すべきか決めなくてはならず、フィルムなら現像から紙焼き、デジタルならRAW現像で加減できるとしても、仕上がりのよさや、より自然な見た目のためには露光時に露光量を的確に決定すべきだろう。このようなとき、照度の把握、反射率と反射された結果の輝度の把握が重要になる。これまたヒストグラムを見てもわからない。
ただ、光量や照度の把握は入射光式露出計でわかるが、反射率と反射された結果の輝度の把握のためスポットメーターを使用するためには事前に知らなければならないものごとがある。
冒頭に書いたが、反射光式露出計は世界の明るさの平均は18%であるとする仮定に基づいて、18%の反射率の物体を18%の濃度で記録するための指針としての適正露光値を示す。スポットメーターで18%の反射率の物体を計測するならよいが、より明るい、より暗い反射率の物体や状態を計測するとメーターの出た目はこうした物体や状態を18%の濃度で記録できる数値を示す。白い壁なのに、グレーの壁として記録される値を示すのだ。また色彩は色ごと反射率が違う。
色彩を忠実に描画したい場合だけでなく恣意的に濃度を変える場合も、意図通りにしたいなら知って置かなければならないのが色の反射率と反射率に対する補正量だ。これはフルカラー時だけ出なく、彩度を落としたりモノクロ化する際にも重要になる。私はしょっちゅうど忘れするのでチャートを印刷して露出計の裏面に貼っている。無彩色での補正は自覚しているのが普通だが、有彩色について補正量0と1・2/3の違いは結構な差であり、撮影時に忘れている人も少なくないのではないか。頓着しなくてもそれなりに写るとはいえ、どうでもよいなら無視してもよいが意図を反映させたい場合は注意すべきだろう。なお、私たちは色名を先入観にして実態を見るので騙されがちだが、植物の葉色の「緑」は(植物の種によって差はあるが)チャートに示したようなグリーンではなく、むしろ黄色に近い色だ。これは植物に限った話ではないし、緑色だけが特殊でもない。
またまた平均反射率18%の話に戻るが、これを適正露光の基準にして運用上問題ない証拠として、人間の皮膚の反射率に近いとする意見がある。大いに間違っているわけではないし、この通り運用して問題ないとも言えるが、東アジア人の一般的な皮膚の反射率は18%以上だろうと私は感じる。ましてヨーロッパ圏の色素の薄い人々は明らかに18%以上だ。さらにアフリカ系の人々は18%より反射率が低い人が多い。ヨーロッパ系の人々は色のりした肌再現を好む傾向があるので、結果的に露光量が減って18%程度になるのは歓迎されるだろうが、東アジアでは色浅い肌再現を好む傾向があるので18%では暗すぎると言える。これが(入射光式露出計、反射光式露出計いずれであっても)女性ポートレイトは1絞りくらい開けろの背景だ。こうしたスキントーンの問題をヒストグラムで解決しようと思っても、これまた無理である。
だったらどうしろ、なのだ。気にしない、どうでもよい、という姿勢だって一つの解決策だ。気にするなら、照度を入射光式露出計で計測してライティングや露光値のアタリを出して、もっとも見せたい部分や気になる部分がどのような濃度で描画されるか、描画したいか入射光式のスポットメーターで計測するのがよいだろう。過去にも書いたけれど、スポットメーターは濃度を知るために使うべきものだ。
Fumihiro Kato. © 2018 –
Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.