クリップオンストロボをいかに調教するか

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(年末の怒涛の更新をしているけれど、これでひとまず打ち止めかな)

タイトルの意図を正確に記すなら、クリップオンストロボの光をいかに調教するか、だ。以前からグリップタイプのストロボには大出力のものがあったが、出力が十分に大きなクリップオンストロボが一般化したのはせいぜいここ20年くらいだろう。近年はGODOX、さらにはProfotoからチャージタイムの速さも大型ストロボと変わらないようなクリップオンストロボが市場に送り出されるに至った。「光の減衰など特性と日中シンクロの効果」に書いたように、各メーカーのフラグシップ機の出力は大型ストロボを350Wから500W程度で発光させた際の光量に匹敵するものになっている。ただし、この比較は正確ではない。クリップオンストロボは発光部のレンズを通過させ集光性を高めた状態、大型ストロボの発光部にはクリップオンストロボの集光度相当の照射角を実現するリフレクター+ディフューザーを装着した状態で使用したときのおおよその感触だ。これは並べて比較するような条件ではない。この比較でよいではないか、とする人がいるとしても両者は光の質がまったく違う。

クリップオンストロボと大型ストロボの発光部の違いは「クリップオン・ストロボの光は汚い?」に図示した通りで、いかに光量を稼ぐかに特化したクリップオンストロボ、さまざまな光をつくりあげる素材としての在り方に特化した大型ストロボの発光部とまったく別の方向を目指してつくられている。

大型ストロボの発光部をアタッチメントを装着しない状態で使うことは本当に稀であるし、リフレクターだけの場合でも前面のいずれかの位置にディフューザーを当てる。そもそもが発光部と言えばほとんどチューブだけのようなもので、筐体側を除いた四方八方に光が広がる。これでは無駄が多いので、効率を上げるためにリフレクターを電灯の傘のように装着する。装着しないのだったら、光の指向性を強くしたり、四方八方に広がった光を反射させ前方に向けるなどの機能があるアタッチメントを使用する。

光量を稼ぐことに特化したクリップオンストロボが、チューブの前面にレンズを置いて光の集光度をとにかく高めているのは前述した。小排気量のエンジンを高回転までひっぱって馬力を稼ぐようなもので、これはこれで面白いけれどギリギリいっぱいで余裕綽々とはほど遠い。クリップオンストロボの発光部を覗けばわかるように、チューブが収められている部屋は開口部以外が反射鏡のようになっている。レンズはフレネルレンズなのでノコギリ刃状にギサギザした段々になっているのもわかるだろう。小さなチューブ、狭い筐体内の反射体、小さな開口部、フレネルレンズ、が合間って配光パターンが不自然になる。

明暗が生じる配光パターンはできればなだらかな同心円状であったほうが扱いやすしい自然でもある。パッと見では明暗の違いを撮影結果から見て取れないかもしれないが、コントラストを低くしたり応答特性を穏やかにしたとき均一な明度と彩度を持つ平坦な被写体ではパターンが嫌味に描画されることがある。硬くて小さな光にまだらがあるのだ。このような特殊な条件でなくても、たとえばブツ撮りの背景を均一にライティングしようとする際など、近距離から光を照射しているのも相まってまだらが大いに気になりやすい。こうした重箱の隅をつつかなくても、もっと均一に柔らかい光の質であってほしいと感じる。大型ストロボの発光部も太陽直送の自然光と比較したら大概なものであるが、自分が求めている通りの性能を持つアタッチメントで理想的なものに変えられ、これを人工光源のメートル原器にしてクリップオンストロボの光をどうにかしたいのだ。

Profoto A1にはフレネルレンズだけでなく半球状のドームディフューザーがアタッチメントがあったり、GODOXの製品には大型ストロボの発光部同様の360 IIやフレネルレンズ付きチューブと管球式チューブが交換できる200Wの変態的な製品がある。こうした製品であれば、純正だろうと手製だろうと試行錯誤できる。こうしたアタッチメントがないクリップオンストロボも同様に試行錯誤できるのだが、光の質にこだわりはじめると暗中模索の迷路に迷いこみかねない。

どのような方法を取るとしても、拡散光化、面光源化することになり、何もつけず、何も設置せず裸の状態でクリップオンストロボを発光させたときと比較して光量がかなり落ちる。冒頭に書いた大型ストロボとクリップオンストロボの光量比較が、比較として使える場合もあれば、使えな場合の方が多いのもここに理由がある。クリップオンストロボの発光を汎用性の高い拡散光化、面光源化する方法を挙げると
1.バウンス
2.ディフューザー
3.アンブレラ
4.ソフトボックス
5.アタッチメント式の小型ソフトボックス
6.拡散板
となるだろう。

この中で私が実際に試してみて、あまり実用的でないと感じたのが「アタッチメント式の小型ソフトボックス」だ。ストロボを買ったとき小さすぎ手が入らない白手袋とともにおまけでついてきたもので、ソフトボックスのつくりそのものは悪くなかった。使えないポイント(?)は開口部の面積が圧倒的に小さい点、内面が白く反射に都合よくできているのだが光の助走区間となるソフトボックスの全長が短く活かしきれていない点だ。で、これを様々に自作してなんとかならないか工夫したけれど結果は芳しくなかった。ボックス形状ではないが、開口部の先にディフューザー的なナニカを設置できるようにしたものもあるが内容は大した違いがない。もちろん無いよりましで、もしかしたら使い勝手のよい撮影分野があるのもしれないけれど、光量が減る以上の効果が得られないように思う。透明なプラスチックにマイクロプリズム的な加工が施されたストロボ付属の拡散版のほうが、透明度が高いだけに光量が落ちず割り切りがよいかもしれない。(使えないとしたが、小型であることがメリットのクリップオンストロボを使い尽くすため、二軍で出番待ちにはしている)

では私が好むものを順に挙げて行く。
バウンスがもっとも効果的。続いて、アンブレラ。条件付きで、ソフトボックス。と、なる。バウンスは反射させる面との距離、距離と関係する反射面の面積が関係するとしても、拡散光化、面光源化ともに十分なレベルに達する。アンブレラはバウンス同様に反射光を利用する異口同音の装置だ。私は昔々MITの博物館に収蔵品の撮影に出向くため買った開口直径35cmくらいの小さなアンブレラと通常サイズのものを所有している。小さなアンブレラは開口が小さいため面光源としての面積が小さいけれど、コンパクトなことで静物撮影のライティングに潜ませたり、予想外の条件で1灯ほしくなったがとき重宝している。ソフトボックスは比較的小型のものであっても、本来の機能をクリップオンストロボでは使いきれないように感じる。そこで複数台のクリップオンストロボをまとめてボックスに突っ込もうとしても、数台のストロボを取り付けて更にソフトボックスを固定できるブラケットがない(あるのだろうか? ないよね?構造的に)。そこまでやるなら、複数台のストロボをアンブレラに向けたほうが手っ取り早い。では、ディフューザーに向けて直射するのはどうか、となる。この方法はクリップオンストロボの配光パターンを拡大させ曖昧にする手法と言え、設置条件にもよるがバウンスやアンブレラよりも一様な拡散光と面光源をつくる能力が低い。ただし、まったく使えない訳ではなく他の方法が適さない場合(設置する位置取りの問題など)は選択肢に入る。なのだが、大型ストロボの発光部をリフレクターだけでデュフューザーに向けたときとは明らかに結果が異なる。

GODOX、さらにはProfotoがクリッブオンストロボの新機軸を繰り出してきて、これから大型ストロボの領域をどんどん侵食して行くだろう。こうした製品がどれほど高性能化しても、発光部が小型であるのに変わりなく、ブレークスルーとなる発明がないかぎり多かれ少なかれクリッブオンストロボの光の質問題はしばらく残りそうだ。たぶん私たちは、まだクリップオンストロボの能力と可能性を使い切っていないだろうから、もっともっと工夫しなくてはならないと思う。

 

Fumihiro Kato.  © 2017 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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