カーシェアリングは踊り場時代に入る

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クルマを所有することの恩恵を最大限引き出したい私でも、カーシェアリングは気になる存在であるし、将来的にクルマは所有せずエリア内で借りるものになるかもしれないとする予測は当たるかもしれないと思っていた。そう、思っていたである。

カーシェアリングは早い話がレンタカーだ。会員になって(なかには月額0円プランもあったりする)クルマを予約し借りて返すサービスで、予約等はWEBで行われるのが通常なので店頭でのやりとりはなく、給油の支払いは運営会社の支払いだったりする。クルマを所有していても会員になれば全国の同系列のシェアステーションで借りられるため、飛行機で移動し現地でカーシェアリングを使うなどという利便性がある。これならクルマは所有しなくてもよい、と判断する人がいて当然だ。ただし、シェアステーションが身近にあった上で、使いたいときクルマが確実に押さえられるならと条件が厳しくなる人もいるだろう。また別の人は、レンタカーでよいではないかと思うかもしれない。このためか、あるいは別の理由からか、日常的にシェアステーションを見かけるようになったが、怒涛の勢いでは自家所有のクルマの比率は減ってはいない。

クルマを所有すれば購入費だけでなく各種税金や車検費用、消耗品の買い替えといった費用がかかるのはカーシェアリング運営会社も同じだ。こうした諸経費を考えると、会費0円の従量制サービスでは息つく暇なくクルマが貸し出され返却され続けていなくてはなかなか売上が上がらないのはとうぜんである。会費制なら、会員が増加し続けなくてはならない。クルマの所有者が自らのクルマの使用実態を考え熟慮し車種やグレードに悩むのと同じで、クルマにかかるコストを高いと低いとそろばんを弾かざるを得ないのとも同じだ。カーシェアリングは、現状では一回の貸し出しあたりの利幅が小さく、オフィス備品のリースほどには儲かっていない。またサービスの価格と内容が大差なく、用意されているクルマも大概は庶民向けでユーザーもここには期待していないとなれば、「どこにでもある」ことで圧倒的な差をつけないかぎりの競合他社とどんぐりの背比べである。コインパーキングを使用するとき、「そこにある」のが最重要でA社であるかB社であるか系列は二の次なのと同じである。

利幅が小さいなら規模を拡大するしかない。どこにでもある状態をつくるためにも規模は拡大されなくてはならない。ここにカーシェアリングのジレンマがある。特定のコインパーキンググループと包括的に契約して、時間貸し駐車場にシェアするクルマを置いていけば容易にふたつの規模の拡大は実現されるが、パーキングとしては駐車させたほうが儲かるのである。したがってコインパーキングにステーションが併設される例は増えているが、駐車スペースのほとんどをシェア用に占める例はないはずだ。現状でカーシェアリングは実験段階から先へ進んでいるが、いずれステーションの確保が頭打ちになり競争と利幅の小ささから踊り場時代を迎えるだろう。中国ではシェアするクルマを高級車に限るサービスがいくつか登場したが大規模倒産している。土地が有り余っている中国ですら、利幅の小ささを規模で補うビジネスモデルは曲がり角なのだ。

中国ではクルマの所有意向が強いかもしれず日本と同列では語れないかもしれないが、カーシェアリングがコイン駐車場のように土地の有効活用として選択されないかぎり我が国もニーズの飽和を前にして踊り場で立ち止まらざるを得ないだろう。将来EV(電気自動車)が普及した暁に、充電難民になりやすい集合住宅に暮らす人などが充電施設が用意されているシェアスタンドのクルマを借りるほが圧倒的に便利になれば利用は拡大されるかもしれない。あるいは税制が変わりクルマを所有することが現状以上に経済的な負担になったり、カーシェアリング優遇税制になれば利用者は増えるだろう。だが、どちらも現在は希望的観測でしかない。したがってカーシェアリング事業に参入できるのは大資本の会社であり、消耗戦を戦える会社だけになる。

クルマを走らせながら周囲を見た限りだが、カーシェアリングは都市の周縁部へ拡大している。やがて周縁部の外へ陣取り合戦の戦域を拡大させるほかなくなるが、こうした地域に地主が持て余している土地が容易に見つかったとしても、公共交通が貧弱な地域ではクルマは家族一人に一台に近い所有率であり、18歳になったら軽自動車一台といった必要性を覆せるかが大きなテーマになるだろう。18歳になれば免許を取りクルマを増車するのが当たり前の土地にはレンタカー事業者がすくない。これはとうぜんだろう。ちょっとした買い物や用事のため使用する2台め以降のクルマは借りるほうが、もしかしたら得かもしれないが現状のライフスタイルにマッチしないカーシェアリングを利用するだろうかという疑問が生じる。クルマの内部をリビングの延長のように整える人はカーシェアリングに振り向かないだろうし、インテリアや便利グッズや調度を整えなくても地方には家にいるような気分でクルマを使いたい人は少なくない。意識改革を起こすには必然性がなければならないが、ライフスタイルからも駐車場に困らない土地事情からも現状では必然性が薄いのである。

繰り返し書いてきたが、カーシェアリングという言葉は新しいが内容は借りるのが楽になったレンタカーだ。クルマを運転しなければならない理由が一ヶ月に一、二回で身近にレンタカー店があるなら、レンタカー店で借りても利便性は大差ないだろう。月一回以下の行楽などの目的のためクルマを使いたいならレンタカーでよいはずだ。週一、二回以上運転しなければならないとき便利なのがカーシェアリングとはいえ、こういった人でクルマを所有していないケースは現状では都心部でも限られそうだ。なぜなら都心部は公共交通機関に恵まれ、ライフスタイルは公共交通を前提にしたものになっている。駐車場を持てないためクルマを所有しておらず病人や高齢者を週一で病院に連れていかなければならないなど、レンタカーではなくカーシェアリングを高頻度で使用する理由は限定的だ。都内や地方都市の中心部に暮らしていて、通勤のためのクルマをカーシェアリングで賄うというのは考えにくい。またこうした場所ではステーションができても土地の占有率の問題から多数のクルマを駐車しておくことができず、毎日定時に多くの人が利用するのは不可能だ。

都市の意識が高い層にカーシェアリングは訴えかけるものが多そうだが、運営会社にしてみれば土地代は高いし利幅が小さいしで現状では主戦場ではなくモデル経営やアンテナショップのようなものに違いない。なんら資料を持っていない私でも、主戦場は郊外都市やニュータウンだろうと推察できる。公共交通が手薄になる郊外は駅に出るだけでもバス便であったり、原付や小型自動二輪を使用している人は多い。したがって自家用車率が高いが、家族のうち誰かがクルマを使用すると他の人はバスを使って駅に出て、さらにいくつか乗り換え目的地に行かなければならない場面がある。しかしクルマをもう一台買うほどではないなら、カーシェアリングを利用しようとなるだろう。ただし、この場合であってもシェアスタンドまで自宅から徒歩で30分かかるようでは論外だろう。住宅開発が終了した場所ではコインパーキングをつくるのも難しい現状で、コインパーキングがあったとしても数台分なかには1台というケースも多く、新たにシェアスタンドを設けるのは難しい。休眠地の利用法として、利幅が大きければコインパーキングではなくシェアスタンドを選択するだろうが現実は正反対だ。

カーシェアリングは利用者側からすればクルマを所有するための購入費や経費が必要ないため合理的である。環境保護の観点からは、生産されるクルマの台数が減りほんの少しメリットはあるかもしれない。しかし、クルマを走行させればEVであっても発電が必要で原子力発電所を稼働させないかぎり現段階ではすべてのクルマをEV化するのは難しく、火力で賄えば二酸化炭素を大量に排出することになり、動力源がなんであれ道路は摩耗しインフラは整備し続けなくてはならない。カーシェアリングを運営している会社は、先々どのように社会が変わるか不透明であるため今から唾をつけておくのだろうが、踊り場時代を乗り切るのは楽ではないだろう。そして利用者の金銭的負担は圧倒的に軽くなるものの、クルマを所有している人にカーシェアリングへ切り替えさせるには説得力に欠けている。なぜなら必要だからクルマを所有しているのだし。

 

Fumihiro Kato.  © 2017 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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