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ライティングの事例として、複雑な配置を図示したものをときどき見かけるけれど、ああいうことをやっている人を私は見たことがない。右からメインのソフトボックス、左にアンブレラ、背景からなんらかのライトが2基とか。こういう設定は実際に求められる例が皆無に近いし、仮にライティングのコツの説明だったとしても適切ではない。もっとシンプルにできるし、無理をすれば道理が引っ込むのがライティングだろうにと、つくづく思う。そもそも主光源で過ぎたるものを別方向からの光源で殺すなんて、単に主光源の設定が下手くそでリカバリーの方法も間違っている。基本は1灯でライティングを考え、レフなどの反射体で補うのが道理だろう。地球に対して太陽はひとつなのだし。
ムービーとスチルのライティングは根本ではまったく同じだ。しかし、枝葉についてはかなり違いがある。ムービーではロケだろうとスタジオだろうと、場所、時刻、状況、心理を照明でかたちづくる必要がある。室内で物語が進行するシーンでは、室内らしい光をつくったうえで、窓の外、半開きのドアから見える隣の部屋などといった画角内に収まる異なる光線状態をすべてつくり、食べ物から湯気があがる必要があれば湯気用の照明を配置する。俳優個々を適切かつ状況に応じた照明で照らす。スチル撮影でここまで求められるのは本当に稀れだ。一方スチルではもっと単純に被写体そのものが生きるライティングをするだけでよい。
こうなると光源を配置する位置は限られ、光源の数も必然的に少なくなる。釈迦に説法だろうけれど、一応図示してみる。Fをフロント、Rをリアとして、矢印は撮影者の視点、球体は被写体とする。特殊効果を狙うのでなければ、正面水平角180°以内、被写体の上に90°の範囲が、正常に機能する照明の位置だろう。
この範囲のどこに光源を置いても(効果的か、きれいかは問わず)なんとなく自然なライティングになるだろうが、わずか数度の角度違いに光源を設置しても差異はないから自ずと配置する位置は限られてくる。
さらに、意図の違いを発揮できる配置はもっと限られてくる。したがって、実際に使用するライティングはとても単純なものになる他ない。これは絶対ではないし、人により異なる位置こそ扱いやすいし自分らしいとする意見があって当然だ。
自ずと使える光源の位置が決まる。意図に応じ最適解は異なるけれど、たとえばこれで十分ではないですかね。
どういう場所で撮影するか問わず、背景が被写体に隣接していて厳密に均一な照度が必要なければ主光源だけでよいし、暗黒にする必要があれば主光源と被写体から距離を離し、距離がかせげないなら黒の背景を使って主光源の影響を受けにくくするなど、パターンは限られている。いまどきは、背後から1灯入れて被写体に光の輪郭を入れるのさえ演出過剰という風潮だろう。そしてこれらは、被写体が人間か物体か問わず共通している。
ブツ撮りの場合、しばしば仰角を背後へ45°の位置に主光源を置き、さらにレフや鏡で光を起こすだけでは物体のディティールが不足したり、何らかの説明が足りないとき細部を細工する光源を用いる。ときには工作と呼べるくらい凝った細工を物体に対して施したり、舞台でいうところの大道具さんの仕事をしたりするけれど、やはり基本は1灯で基本形を構成するところにある。
無理と道理。これは冒頭に書いたが、地球に対して太陽はひとつの原則に鑑みての「無理と道理」だ。太陽が2つ存在するのを模したライティングは、SF的設定のときだけでよいだろう。人間は慣れ親しんだ地球上の光の様相をちゃんと記憶しているから、無理なライティングに対して「変」あるいは「毒々しい」と感じる。これが意図ならやればよいけれど、主題が「変」や「毒々しい」にないなら無理をする必要はまったくない。「毒々しい」あるいは「特異だ」と感じる光の表現でも、道理にかなったものなら「変」にはならなものだ。たとえば、モデルの顔とメークのディティールが肉眼よりはっきり緻密に描写されホリの深さが顕著に表現されている場合とか。
無理はもちろん道理にかなっていても、光源の灯数が増え、内容が複雑化すれば、準備に手間取るばかりか撮影中にトラブルが発生する可能性が上がる。定常光を使用しているならミスやトラブルを発見しやすいがストロボではどうだろう。シンクロしないミス、あるはずの光源が機能しないミスは発見が遅れるかもしれない。ムービーは照明マンが光の設計から設置、管理まで行うが、スチルでは撮影者が主体となってライティングに携わるので、撮影中にトラブルが発生するととんでもなく煩雑なものごとが降りかかってくる。屋外でのロケで太陽光のみを光源としてちゃんと写真が成立するのだから、太陽のようにシンプルかつ大きな面を持つ光源さえあればどうにでもなるのである。
Fumihiro Kato. © 2017 –
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