パン焼きから学ぶもの多し

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[もし写真がいっこうに水準を超えられないなら、理由はここにある]

パンを焼いた話を書いたが、あれから私はたとえアクシデントが生じても失敗を回避できるくらいになった。そして、学ぶものが多かった。

だいたいパンのレシピは材料の単位がグラムであるものよりカップで計量するもののほうが多い。これはたぶん、小麦粉をがさっとすくい取って使う昔からの習慣によるものだろう。カップ計量のメリットは、加水率を直感的に把握できる点にある。カップ3の小麦粉に対して一般的にカップ1と1/2の水を加えるのだが、ここから小麦粉の容量に対して半分の水を加える基本が理解される。これがフランスのパンになると加水率が上がり、最大で小麦粉に対して70%になる。しかし、だ。手に取りやすいレシピにおいて、パンの加水率についてはっきり書いてあるものは少ない。単位がカップであるか、カップとグラムが混在しているか問わず、何カップ、何グラムの羅列だけだ。こういった個別のレシピの前に「パンづくりの基本」として材料の配合比率の定石を別に一章設けて真っ先に提示されるべきで、そうしたほうが理解しやすく失敗しにくくなると思うのだが、そうならないのは多くの人から必要にされていないからなのかもしれない。

世の中一般としては「知りたいのは理屈ではない」、ということ。ただしこういったレシピのおかげで、私は自分で考えざるを得なくなり、考えたおかげで理解の深度が深まった。小麦粉と水の比率に限らず焼成時間と温度についても前述の通りで、何度で何分と答えはレシピに出ているがなぜそうなのかは示されていない。したがって実際にパンを焼きながら、考えることになる。パンのレシピには「オーブンは機種それぞれの特性があるから温度は加減してね」的な注意書きがついている。では自宅のオーブンでは設定をどうすべきか、焼き上がりの結果を見て次回の温度設定をどうしたらよいか、この辺りのことは誰も教えてくれない。パンが黒焦げになるなら温度を下げようとはっきりするが、こんな簡単な失敗はよほどでなければしないのだった。大概は、もう少し内部の水分が飛んだほうがよい感じとかなんとかなのだ。で、答えを知りたい人はYahoo!知恵袋的なもので質問するのだけれど、回答する側も理屈を知らないまま答えるため、パンづくり若葉マークの私から見ても融通の利かないものかおかしな回答になる。

このサイトでパンづくりの情報を知りたい人は多くないだろうからざっくり書くが、オーブンに入れたあとしばらくイーストは発酵を続け、生地の温度が彼らを死滅させたあとは二酸化炭素が膨張し、やがてグルテンが焼き固まることで生地の体積の膨張が止まり、ここから内部の水分が本格的に減って行き、最終的にはパンの外側が焼けメイラード反応を起こすことで風味が生じる。例の捏ねないパンも、レシピのままでも焼けるには焼けるが出来上がりが物足りない。したがって私は自宅のオーブンの特性を探りつつ、ダッチオーブンの蓋をしたまま元のレシピより低い220℃で時間も長く45分から50分焼き、蓋を取ってレシピより高い250℃で15分程度焼くという最適解を見つけ実践している。パンを焼いている間に何がどうなっているか理屈が最初からわかっていれば、試行錯誤というか実験をもっと少なくできただろう。

理屈を最初に知りたい。こう思ったのはパンづくりが初めてではない。小学校の体育の授業で器械体操を学ぶときも、自動車学校で運転を学ぶときもこう思った。理屈でなく体で憶えろは正論ではあるが、原理がわからず闇雲にやってまぐれ当たりで成功するより、一通りの理屈を知った上で試行錯誤するほうが楽チンなのは事実だろう。最近は体育の授業も運転の授業も理屈を真っ先に教えてくれるのかもしれないけれど。

このサイトで写真をどのように現像するか説明してきて(アクセス数などから)感じるのは、私がいちいち「応答特性」の操作から解き明かすことにイライラしている人が多そうだということ。「こういう写真にしたいなら、こうやる」的なものを求める人のほうが圧倒的多数なのは当然だろうけれど、あなたの手元のRAWデータの状態はわからないし、あなたの美的感覚がどっちの方角を向いているかもわからないのに答え一発はありえず、また仮に私が提示した答えがたまたまストライクだったとしても応用が利かないではないか。ひるがえって私自身について言えば、写真の新しい技術や技法についてもレシピでなく原理を知りたいのであって、なぜなら身につくし応用が利くからだ。私はパンづくりにおけるYahoo!知恵袋的なものにしたくないので、写真について前述のようにしているのだった。

ただ私がRAW現像を学びはじめたとき、世の中にある解説は現像ソフトの取説を大きく超えるものでなく大抵はどうしようもないものだった。ほら取説には「こうすればこうなる」は書いてあっても、データはどのようなもので、色や明るさはどのようなものか、なんてことに踏み込んでないでしょう。だから試行錯誤しつつ勉強せざるを得なかったのだ。でも、これを自慢しようとは思わない。しないから、こうして様々な方法論についてサイトで説明している。なのだけれど、たぶんこの日記風の小文を読んでさえ自慢たらたらの嫌味なものだと感じる人がいるのは過去からの経緯から確実だ。自分で考えて、考えた結果を検証して、正誤をわかったうえで蓄積するというだけなのだが、これを嫌う人は多いのである。嫌う以前に、発想すらしない人が多いのである。[もし写真がいっこうに水準を超えられないなら、理由はここにある]の答えはこれがすべてであり、これは技能に限らない。もし「答えになっていない」と言うなら一生水準以下の写真しか残せないだろう。日常の食で食うパンやパン菓子も写真も同じであり、私個人について言えば学び考え続ける日々がこの先ずっと続くのだ。学び考え続ける日々が終わるのを、私は恐ろしいと思っている。

 

Fumihiro Kato.  © 2017 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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