私(自分)が選択できないモノ・コトを知る

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価値観はそれそのものに意義があるのではなく、自らの状態を客観的に示す語である。だから価値観が必要であるか問うまでもなく誰しもの内心に存在しているし、もし客観視できないならこれを価値観と語るのはおかしい。具体的に書くなら、「掃除が大好き」という性質は何らかの価値観に基づいているしこういったものは誰にもあるのだが、これが「潔癖」を愛する価値観なのか、誰かがどうしても許せないため痕跡を消し去ろうと必死になって掃除をする「許せないナニカ」の価値観なのか、客観的に内面を整理できないならあまり意味のないものになる。

ぐだぐだと定義を私自身が整理したが、こんなことを言いたいのではない。では、何を言いたいのか。過日、入院先のベッドに寝転びながらスマホを充電しようとしたとき、Apple純正の小さなキューブ型充電器のコンセント側に淡い緑色(パステルカラー)の丸が描かれているのに気づいた。小さく薄い文字で規格やら書かれているところだ。たぶん前々から見知っていたはずだが、このとき「ああ、この色を私自身は選択できないな」と思った。痛切に思った。

私が服を買う、ペンキで色を塗るなどといった自分で色を選択可能な場合、この緑色を選ぶことはぜったいない。きれいな色ではあるが選択できないのだった。ポートレイトを撮影する際にスタリイストあるいは自ら相手の衣装を選択する際、背景紙の色を選択する際にも選べない。なぜ選べないのか、これから考えなくてはならない理由は、客観的に内面を整理できていない価値観未満の状態が意味のないものだからだ。こんなものどうだっていいという人がいても、別に驚かない。なぜなら私だって他人が「どうしても選択できないナニカ」にどうだっていいと思うかもしれないからだ。だが、画像を扱う以上は色について意識的でありたいと思う。それだけのことだ。

つまりこの緑色への(というか私の色への)価値観は、グラフィックデザイナーが色を選択するときの自らの傾向を考えずにはいられないのと同じ問題を孕んでいるということ。料理人であればどうしても譲れない味付けの微妙なところとか、素材の取り合わせとかといったものなのだろう。

自画自賛しようというのではないが、こうした「どうしても選ばない色」的な「曖昧なまま放置されている価値観なのだろうが価値観と言い切るには客観的でないもの」を、ちゃんと考えるのはよいことだ。なぜなら、そういう分野が人生の大切な要素なのにおざなりにして、大雑把な意味で「価値観」などと誤魔化すのは人生と分野への冒涜だから。だから、Appleが選択したパステルカラーの緑色についてこれから考えるのだ。

では、パステルカラーの緑色について考えたらなにが得られるか、である。たぶん、きっと、やはり、結論が即お金になることはないし、世界の危機を救うこともできないだろう。なのだけれど、自らの認知や常識、傾向、美意識などなどの「偏り」を知ることになり、より広い視野で創作を見つめる材料となる。また、どんな「偏り」であっても自分に偏りがある事実を直視するためになる。「はい、私は色を平等に扱えません」といったように。

私は緑色を嫌悪していない。ブリティッシュグリーンの車を見て、いいなと感じる。もしかしたら選択するかもしれない。なのだけれど、全色相の中で「緑」はもしかしたら避けたい色かもしれないと思っている。さらに、Appleが選択したパステルカラーの緑色については発想すらしない色であるのは間違いない。頭の中に、素材として入っていないのだ。だから「選択しない」のは確かだが、「選択肢」そのものとしてもない。また、こういった慣れていない色だから、他の色との取り合わせも思い浮かばない。誰かから「他の色と取り合わせろ」とされたら、頭の中の色見本帳をひっくりかえして組み合わせを考えベストを尽くすだろうが、私のベストが緑フェチの人、パステルカラーフェチの人の琴線に触れるものになるかわからない。そうだそうだ、私はパステルカラーに疎い。

グラフィックの作業に触れたことのある人なら、フォントのトメハネ、抑揚、角のRといったものに好みや許せないものがあるはずだ。アルファベットなら小文字のiなどの点の部分が四角形になるか丸になるか、とか。

 

好き嫌い、の話しではあるけれど好き嫌いにもちゃんと合理的な何かがあるのだ。

Fumihiro Kato.  © 2017 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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