Herbie HancockとPaul Jacksonとファンクの推進力

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マイルス・デイヴィスが電化し、楽器編成ばかりでなく既存のジャズのフォーマットを越えようとした1970年以降、彼のバンドからも他からも電化やロックやファンクのフォーマットと音楽を融合させるミュージシャンが排出したのはご存知の通り。繊細かつ知性的なピアノ奏者ハービー・ハンコックも、1969年ブルーノートレーベルを離れワーナーからファンク一色の「Fat Albert Rotunda」を発表する。「Fat Albert Rotunda」はテレビの劇伴ということもあり、本人の意思はともかく世の中からはお仕事のひとつと見られたところがありそうで、1972年に名盤「Head Hunters」を発表したとき「ハービー・ハンコックまでコマーシャルな売れ線に転向したのか」と大いにジャズファンは嘆いたらしい。しかし当時からファンクのアルバム「Head Hunters」は名盤として認知され、今日も音楽性は色褪せることがない。

「Head Hunters」の録音に参加したハービー・ハンコック以外のメンバーは、のちにThe Head Hunters を結成している。それだけ「Head Hunters」でハービー・ハンコックが提示したファンクへのひとつの見識が魅力的であり、またメンバーの相性もよかったのだろう。なのであるが、私は「Head Hunters」より次作の「THRUST」のほうが圧倒的に素晴らしいと感じる。「Head Hunters」は画期的であるが、ハービー・ハンコックがまだ手探り状態である点が曲づくりと演奏のまとめ方にあらわれていて、どことなく落ち着かない。がんばってファンクに到達した感を覚えるのだ。

The Head Hunters のメンバーのうちなんといっても重要なのは、ベースのポール・ジャクソンと「THRUST」の録音から加わったドラムのマイク・クラークだ。「THRUST」がより強力でファンクなアルバムになり得たのは、マイク・クラークのタイトなドラムによるところが大きい。ポール・ジャクソンの呪術的な地を這い回るごときベースとマイク・クラークの出会いは、音楽をイントロから終末まで進行させる推進力となっている。まさに「THRUST」。迷いなくファンクに音楽を前へ前へと推進させている。

ポール・ジャクソンの演奏として、「Head Hunters」の冒頭を飾る「Chameleon」は誰もが代表的なものと言うだろう。彼は70年当時のフェンダー・プレシジョンベース、のちに名称が混乱しテレキャスター・ベースとも呼ばれるネック近くに巨大なハムバッカーを一機だけ搭載したベースを使用していた。この倍音が豊かさすぎて音作りが難しい楽器で、ユニークな「Chameleon」のベースラインを延々と演奏している。同じフレーズを延々と、延々と。このタイプのプレシジョンベースはすぐ廃番になり現代にも続くプレシジョンベースに逆戻りするのだが、かちっと現代的な締まりのある音色と違いぼふぼふしているというか輪郭が曖昧なのだけど音程感がある音色で、呪文のように繰り返されるフレーズと相まって呪術なのだ。

「Chameleon」の作曲者は他の曲がハービー・ハンコック一人なのと違い、 (Hancock/Jackson/Mason/Maupin)と記述されている。ポール・ジャクソンは「俺がカメレオンでハービーにファンクを教えてやった」と言っているので、あのリフというかベースラインはポール・ジャクソンのアイデアで間違いないだろう。ということは、ベースラインそのものが曲のメロディーラインを決定しているのでポール・ジャクソン=「Chameleon」と言ってもよいし、=「Head Hunters」にかなり近い。

このポール・ジャクソンの呪文的なベースラインが、マイク・クラークのドラムと合体して一人の呪術師となったのがThe Head Huntersの骨格であり、すべてとも言える。そして二人がリズム隊となった「THRUST」は、真っ黒なファンクアルバムとして唯一無二の存在となり得た。「THRUST」の一曲目「Palm Grease」でど頭からマイク・クラークのドラムがキレキレのリズムを刻むのだが、これが呪術師の動脈の鼓動であり、ポール・ジャクソンのファットな音色のベースがこの呪術師の口から低く低くつぶやかれるファンクの呪文となる。この上に乗るキーボードやサックスは飾りと言っては失礼だし適切ではないのだが、リズム隊の演奏だけで「Palm Grease」は成り立つのだ。呪術師の呪文は、「THRUST」の最後の曲まで一貫している。サンタナの「Black Magic Woman/Gypsy Queen」は呪術的雰囲気が横溢する曲として有名だが、いやーまだまだである。サンタナ擁する呪術師と、ポール・ジャクソンとマイク・クラークが合体した呪術師が呪文合戦をしたら、呪いの試合開始と同時に勝敗が決まるだろう。そんな、感じだ。

「THRUST」以降もハービー・ハンコックはファンクなアルバムをリリースしているけれど、この後は洗練されすぎて呪文が聞こえてこないので私はちょっと興味が薄れる。呪術師ポール・ジャクソンはThe Head Hunters を維持したまま、現在は日本の芦屋付近(らしいと聞いた)の住民となり奥様と仲良く暮らしている。ポール・ジャクソンの使用楽器は、前述のベースから大幅に改造されたピックアップシステムを持つものになり、現在はESPの特注モデルで落ち着いているようだ。Jimmy,Paul&Charとして、かなり洗練され現代的なESPのベースで「Chameleon」を演奏しているのがコレ。


なかなか素敵な演奏(リズム隊)だけど、私は「もっともっと呪文を唱えてよ」と思う。ハムバッカー搭載の古いプレシジョンベースの音は、ほんと呪術師ポール・ジャクソンそのものの声、呪文のようで。

最後にプレシジョンベースについて。私も長らく弾いていたけど、でかいハムバッカーを搭載していない現代に続くモデルでも4絃(低音側ね)ともなると音が太くて倍音が多いので輪郭がぼやけがちだ。そこに出力が馬鹿馬鹿しいほど大きなハムバッカーをネック寄りに搭載されたモデルとなると、私は弾いたことがないが人の話によれば音色づくりから戸惑い、低音側の絃はコントロールしきれないそうだ。まあ、そうだよね。ばふばふした呪文めいた音色とはいえ、マイク・クラークのバスドラと一体化しつつも分離されるベースラインになるのだからすごいものだ。かつて演奏中にベース絃を切ったとも言われるくらい、ポール・ジャクソンのタッチは強いから弾きこなせたのかしら。

Fumihiro Kato.  © 2017 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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