焦っているか焦りは悪いのか

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年齢、年代ごといろいろあるけれど楽になるなんてことはないのだった。子供は好き勝手やっているように見えてあれで悩みがある。ある段階に達したとき、子供のときの悩みが実につまらないものに感じられたりするけれど、過去と現在では知識も経験も精神のありようも違うのだからどうしようもない。これは子供から大人への成長に限らず、大人になってからの一日、一年、十年、二十年についての過去と現在にも言えることだ。

正直に言えば、現在の私はたいへん焦っている。で、焦りはネガティブな意味合いを持つものとして誰もが認識していて、だから「焦るな」と自分に言い聞かせるのだし他人にも助言する。でも、焦りはなくすべきものなのか、すべての焦りが悪いのかと疑問がある。というのも、ギタリストの鈴木茂氏が単身渡米してアルバム Band Wagon を録音したとき、いま行って、いま録音しなければという焦りがあったとリミックス版のライナーノーツのインタビューで語っていたからだ。もしこの焦りがなければ、Band Wagon がないだけでなく現在の鈴木茂氏もまたなかったはずだ。で、焦りは悪いばかりなのか、だ。

写真という美術でも文芸でも音楽でもの現実として、創作のスタートから発表に至る直前までの制作費は自腹である。取材に行くのも、機材を買うのも、スタジオを押さえるのも、なにもかも自腹。音楽ではスタジオを押さえ、他のミュージシャンにギャラを払い、スタジオのエンジニアにもギャラを払いとずらーっと自腹だ。アルバム一枚出すのも大変であり元手がなければならない。前述のインタビューを読むと、鈴木茂氏はロスアンゼルス録音でセッションが終わるごとミュージシャンに現金を渡し領収書を書いてもらっていたらしい。それでなくても音楽に集中したかったろうに。だが、現実はかくも複雑であり、ややこしい。

私の焦りのうち写真について言えば、次々と新たな課題が日々生じていて、これらを解決できる唯一の手段は撮影し現像するほかにないのである。では、カメラと始終にらめっこしていればよいのかとなると、違う。様々な絵画であるとか写真であるとか、様々な音楽であるとか文芸であるとか、様々な世の中のあれこれであるとかに触れ続けていなければ、課題解決の方向は技術的な重箱のすみに限られてしまう。で、誰もがそうであるように現実の世界に生きている以上、面倒でやっかいで一筋縄ではいかない問題が次々登場する。

撮影していて複雑でやかいな問題は解決するのか、将来的にどうかなるのか、という問いが湧き上がってくる。えっ成功するの? それで万々歳の結果が必ず得られるの? と自分自身の内心の声とは思えないくらい意地悪な声がするのだ。ではどうしたらよいのか、なんて答えはない。ない以上は、作品をつくるほかない。しかし一朝一夕に課題を解決できない。まあ、そんなところだ。才能があるから、ひょこりひょんと答えが出ちゃったりしてはいる。ガハハハハハ。なんだけど、昨日つくったものが気に入らなくなっている。

こんな場所に来ていただいている方々がどのような身の上であるか、まったく私には想像もつかない。とはいえ、写真についてのナニカを見たり聞いたりしようとしているうちに迷い込んだ人が多いのではないか、くらいはわかる。もし写真についてナニカを追っかけて迷い込んだ方であるなら、「写真について、焦りはあるかい」と自問自答して、そして思い至った答えについて、答えがどうあれ考えてみるのがよいと思う。

で、焦ってますか。

Fumihiro Kato.  © 2017 –

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連絡 CONTACT

・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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