人はインセンティブをシビアに計測している

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かなり誤解されているのだが、発注側が仕事の主導権(流行りの外来語をつかうならイニシアチアブ)を掌握し受注側は従うばかりで当然という認識は大いに間違っている。あなたが発注側で、作業AをBにやらせようとしてギャラを10万円支払おうと提案し、Bが10万円ではまったく割りが合わないと感じれば受発注の関係に至るまえに話そのものが消滅する。発注側が主導権を完全に掌握できるのは、受発注の関係が取り結べたあとの指示と納品されたものを承認したり突きかえす権利くらいだ。自分を発注側と思い込んでこういった関係性を考えると、そんなバカなと言いたくなるかもしれない。しかし、自分が受注側なら「確かに」と思えるだろう。発注側が仕事の主導権を完全掌握しているとしたら、受注側は奴隷と変わりない。

人の行動は、インセンティブ(動機付け)次第だ。適正な給料と雇用条件を満たさない企業は、労働の動機付けを失った社員の離反によっていずれ遅かれ早かれ衰退する。会社が存続していることをありがたがれと言ったところで、お客様に奉仕することに生きがいを感じろと言ったところで、労働している人はいずれ心が仕事から離れる。デザインや写真を業としている事務所には、ここで修行して実績をつくればいずれ独り立ちできるだろうからありがたく思えといった風のぼんやりした雰囲気が未だにある。雇用されている側も、そんなものだ、上を目指すぞとぼんやり洗脳されている。なかには、君たちを厚遇したら事務所は存続できなくなると言い、存続できなくなったら君たちも困るだろとまるで社会と大人の常識でもあるかのようにうそぶく親分がいる。仕事を取るため規模を大きくしたにも関わらず、取ってくる仕事が規模を維持するのに見合わないなんて親分の経営手腕が劣っているからなのに、である。こういった集団がどうなるか、戦国時代の武将たちを思い起こせば結果は明白だ。人は、体良く使われていると感じた瞬間から、親分をまったく信頼しなくなる。信頼もまた、インセンティブ次第だ。

私のところにNetの窓口から「仕事をください」とメールが届く。これらのほとんどに「なんでもします」と書かれている。新手のspamではなく、ね。私がどのようなことをやっていて、仮に求人するならどのような能力を求めているか知らないのだろう。お金に困っている事情があるのだろうが、こういった頼みに同情して、どうでもよいものごとを依頼して、どうでもよいことに不相応な対価を払ったらどうなるか、である。きっと私はその人を見下し、また何かやらせるか別にして奴隷のように思うだろう。いくら心を律して人の道をはずれまいとしても、心理の奥深くの片隅に奴隷を見る目が生じるだろう。発注するインセンティブの見返りに、こういった道義的問題を抱えるなんて割に合わないのである。ましてや、あそこならとそそのかす人がいるなら気持ち悪いから門前払いだ。どうせ私や、頼み込んできた人を陰からせせら笑うのが目的だろうし。ばれていないと思ってやっているとしたら、どうにもこうにもだ。

ちょっと脱線した、な。で、どこの地方にも警察の圧力に屈さず長年存続しているヤンキー集団があるだろう。なぜ存続しているのかと言えば簡単な話で、親分が子分に十分なインセンティブを与えているからだ。威張ったり、いきがったりするときの箔づけになるだけでは、いくらヤンキー集団とはいえ組織を維持できないのだ。また仁義だけで親分のもと体制を維持しているなんて、あり得ないあり得ない。動機付けとなるものは「自分の人生このとき明らかなメリットがあるだろうか」、これが人として当然の視線である。また当然の計算である。

Fumihiro Kato.  © 2017 –

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連絡 CONTACT

・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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