ちょっと来てには応えない

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先の記事に人脈やチャンスを期待して自分と自分のギャラをお安く設定する必要はない旨を書いた。相手が誰であれ、つまり知り合いや親しい人であっても、この鉄則は変わらない。大人同士の商売がからんだ話に期待は禁物で、期待することで相手との関係が悪化し、友情や信頼は変わらなくても仕事が思うようにならなくなるなんてことは珍しくもないのだ。

これで思い出されるのは、「ちょっと来て」と声を掛けられるケースだ。なになにの仕事の為に来てではなく、「ちょっと来て」的な。ブレストをするからという話はちょくちょくあるのではないだろうか。で、だ。そのブレストはギャラが発生するのか、話題が現実化したときちゃんとスタッフとして迎え入れられるのかである。会社員は「ちょっと来て」と簡単に言いがちだが、「ちょっと行く」だけで交通費が掛かり体が拘束されることの意味を彼らは理解していない。たかだか数百円の交通費だが、されど交通費である。さらに体が拘束されるのにお茶だけで済ますというのは、フリーランスをバカにしているのか、だ。なのだけれど、知り合いや親しい人にこう言われると無下にできないと考えがちだ。

ほんとうに親しい間柄なら、「アイデアだけ持っていかれるのはちょっとなあ」と言えるはずだ。言えないとしたら、まあそのくらいの関係ということだ。人脈やチャンスを期待しているのは自分だけで、相手は有力な人を紹介するつもりも大きな仕事を用意するつもりもなく、せいぜいお安い仕事をこれでもかと突きつけてくるだけ。ちょっと来てと呼び出せるコマ程度の認識に甘んじ続ける結果となる。ただでアイデアや技術や知識をプレゼントして見返りを求めないというなら止めはしないけれど。

「ちょっと来て」をいきなり言う人もいるが、ここに至る伏線を踏まえて「ちょっと来て」の人もいる。たとえば仕事あがりに「スタバ行きませんか」と仕事に無関係な誘いがあり、これが積み重なって「ちょっと来て」になるなどだ。付き合いもまた仕事の内なので微妙なのだけれど、あまりにお安い親近感を抱かれると後が大変になる。巨匠然としている、くらいでよいのだ。実際に巨匠かどうか別にして、いずれ巨匠になり、現在も巨匠の玉子として厳しい研鑽の日々を送っているくらいは雰囲気を漂わせてもよいのだ。巨匠が無理なら、職人の棟梁的な雰囲気を漂わせてはどうか。

いずれにしても、ほいほい仕事でもないのに出かけて行って何か得るものがあるかである。ブレストで発案したアレコレが数ヶ月後にテレビCMになっていた、グラフィック広告になっていた、キャンペーンになっていたとする話はごろごろしている。これらを現場で制作した人はブレストを催した人が発案者と思い、まさか会ったこともないあなたが企画の核心部分を思いついたなんて知らぬままだ。当然スタッフリストの「企画」にあなたの名前は載らない。ほら、人脈にもチャンスにもつながらないのである。交通費も時間あたりの拘束料も持ち出しのうえに、なーんにも得るものがない。

かく言う私も、「ちょっと来て」なんて論外だ。調査会社が人々を呼んであれこれ聞く際でさえ謝礼が払われるのに、アイデアだけ吸い取られてお茶だけでバイバイなんて馬鹿らしい。ブレストに限らず、オーダーされた仕事であっても打ち合わせとやらでダラダラ時間をつぶされるのは勘弁してほしい。私はテキパキの人であり、グダグダは嫌いであると最初から印象づけるのがよいように感じる。段階的でもいいから要点が具体化したら声かけて、である。イメージとしては前述の「巨匠」風で。

 

Fumihiro Kato.  © 2016 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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